マーケティングに使える心理学。顧客を惹きつける9つのテクニック。
- マーケティングについて心理学の面から学びたい
- マーケティングに使えるテクニックが知りたい
- 人がどのように判断しているのか知りたい
人はバイアスの塊で正しい、正しくないの判断もバイアスなしには出来ません。私はそんなことない、と思っている人ほど偏った考え方をしているとされています。
今回はファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を参考に人々の消費行動を心理学の面から紹介します。
マーケティングに使える心理学。顧客を惹きつける9つのテクニック。
ビジネスを行なっていく上でマーケティングという言葉をよく聞くと思います。しかし、その意味合いはデータ分析や宣伝広告など様々な意味で使われることがあります。
Wikipediaではマーケティングの意味を下記の様に紹介しています。
企業などの組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」ための概念
簡単にいうとマーケティングとは「顧客が商品を購入する仕組みを作る」ということです。商品を作って販売しても顧客に商品の存在を知らなければ売れないですよね。だからと言って、ターゲットではない顧客に宣伝しても効果は薄いでしょう。その商品の強みが顧客の悩みを解決し「この商品を買ってみよう」と思っってもらわなければなりません。
そのため、マーケティングには心理学を使うことが有効になります。
心理学を学ぶことで消費者がどのように考えて商品を購入するのかが分かります。
マーケティングにおける心理学入門
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは物事を判断する時に2つの思考モードがあるとしてます。
- システム1…自動的に努力の必要もなく自然と働くシステムです。自分でコントロールしている自覚はないという特徴を持ちます。
- システム2…頭を使わなければ働かないシステムです。選択や集中などの主観的体験と関連づけられるという特徴を持ちます。
システム1の例
・2つのもののどちらが遠くにあるか判断する
・音が聞こえた方を向く
・相手の声から敵意を感じ取る
・簡単な文章を理解する
この様に深く考えず直感的に判断する時にシステム1が使われています。
システム2の例
・うるさい部屋の中で特定の人の声に注意を向ける
・いつもより早い速度で歩き続ける
・自分の振る舞いが適切かどうか自分自身を監視する
・2種類の車の性能を総合的に比較する
・レースの合図に備える
この様に意識的に判断する時にはシステム2が使われています。
消費者の2つの思考モードを分析することで顧客が商品を購入するかどうかが予測できるようになります。
システム1と2は互いに影響し合う
2つのシステムは互いに影響を及ぼしあっています。
直感的にシステム1が働きシステム2の結果に影響を与えます。
システム1は直感的に判断するため騙されやすいのでシステム2はシステム1が判断したことを監視し、制御しなければなりません。
しかし、常にシステム2が監視できるとは限らず、利己的な選択や挑発的な言葉遣い、社会的な状況について表面的な判断をしやすくなることが分かっています。
システム2の欠点
システム2の欠点として3つあります
- 消耗しやすい
- 怠け癖がある
- 感情に左右される
消耗しやすい
システム2に負担をかけすぎると消耗し、自身をコントロールできなくなります。その結果、システム1が優位になり合理的な判断ができなくなります。
- 考えたくないことを無理に考える
- 感動的な映画を見ても感情が動かない様に我慢する
- 相手の無礼な態度に寛容に応じる
理性を働かせるとその分消耗するようですね。
怠け癖がある
システム2は消耗していなくても怠け癖があることが知られています。
例えば34 x 58の様な複雑な計算をする時、脳の一部が活性化されるのですが、頭のいい人はできるだけ脳を活性化させずに問題を解いてしまうことが知られています。
「Aさんは現実の世界に興味がなく几帳面で整理整頓をすることが好き」という情報が与えられ、Aさんは司書と農家どちらに就職すると思われますか?という質問があった時にどちらを選びますか?
多くの人は司書と答えてしまうでしょう。最初に与えられた情報とAさんの就職先に何の関係もないのにも関わらずです。
この問いを判断するための適切な情報は「統計的に農家に司書の10倍の求人がある」という類のもので、このことを知っていれば農家と答えられたでしょう。
この様に人の脳は勝手に自分の中で推察するのが簡単なストーリーを作ってしまい間違った判断をしてしまいます。
感情に左右される
強い感情が引き起こされた時にはシステム2がシステム1をサポートしてしまいます。
- ネガティブな感情によりダイエットをやめてしまう
- 怒りに任せて周りを傷つけてしまう
- 目の前の誘惑に負けて約束を破ってしまう
こうした行動をすると最終的に自分が損をしますよね。
マーケティングにおける心理学の応用
人の思考モードにはシステム1とシステム2があり、システム2が深く考えて判断するのに役立つのですがいくつかの欠点があるということを紹介してきました。
マーケティングではシステム2の欠点に働きかけ顧客に商品を購入する様に促します。この様に紹介すると心理学を使って人を騙している様に感じる人もいるでしょう。しかし、いくら心理学でも消費者の買いたくないものを買わせる様なことはできません。それに、嘘をついて商品を売るというのは詐欺ですのでそんなことをしていると捕まります。
そうではなく、心理学は消費者の満足度を高めるためだったり、消費者が自分にとって役立つ商品にアクセスしやすくするのに役立ちます。例えば、商品の特徴やどんな悩みを抱えている人に有効かを伝えることで「この商品を購入してみよう」と考えてもらいやすくします。
では実際にマーケティングにどんな心理学的テクニックが使われているのか紹介していきます。
- プライム効果
- プロスペクト理論
- アンカリング
- 返報性の原理
- おとり効果
- アンダードッグ効果
- バンドワゴン効果
- ソーシャルプルーフ
- バーダー・マインホフ現象
プライム効果
プライム効果とはプライム効果とは事前に特定の刺激(プライム)を得ることでその後の情報処理に影響を与える現象の事です。簡単にいうと「キリン」と10回言い、言い終えたところで鼻の長い動物は?と尋ねられるとキリンっと答えてしまうやつです。
印象的なCMを頻繁に流すことで商品を購入する時に思い出してもらおうという戦略があります。
他にも下記の様な例があります。
果樹園に行ったと想像してください。
リンゴやミカン、ブドウなどの木がたくさんあって収穫を楽しみました。
その帰りに「ミ〇ン」と書かれた看板を見かけました。雨や風によって真ん中の文字が消えてしまった様です。本来は何と書かれたものか予想してください?
おそらく、ミカンを想像したと思います。「ミシン」や「ミリン」など他の可能性があるにも関わらずにもです。
これがプライム効果です。事前に果樹園に行ったことを想像したため「ミ〇ン」をミカンと判断しました。
なぜ、こうした現象が起こるのか?
プライミング効果があることで省エネで正解にたどり着けるからです。
果樹園に行った時の例のように「ミ〇ン」を見た時に「ミシン」や「ミリン」の可能性も考えていると脳が疲れてしまいます。
それよりか、果樹園なんだからミカンだろ、と考えた方が最短で正解にたどり着けます。この省エネ戦略を発達させることで他のことにエネルギーを割けるように進化しました。
プライミング効果の種類
プライミング効果には直接的なものと間接的なものがあります。
直接的なプライミング効果
カレーのCMを見たことがプライムとなり昼ご飯にカレーが食べたくなる、という現象です。自分のさらされている情報が意思決定にそのまま反映されます。
間接的プライミング効果
ジャガイモやニンジン、牛肉などを見て昼ご飯にカレーが食べたくなる、という現象です。直接カレーを見ていなくても連想してしまい意思決定に影響します。
フロリダ効果実験
プライミング効果を検証した有名な実験でフロリダ効果実験、というものがあります(R)。
この実験では被験者に「しわ」、「忘れっぽい」などの言葉を聞かせると歩くスピードが遅くなったというデータが得られています。
なぜそんなことが起こったのかというと「しわ」、「忘れっぽい」などの言葉により老人をイメージしたので体も老人のように振舞うようになったからとされています。
この論文では怒りっぽい人のイメージを植え付けると実際に敵対的な行動が増えるという結果も得られています。
他にも最初に高級ブランドの名前を聞くと低価格の商品よりもブランド品を買いやすくなる(R)ことや報酬に関する情報を聴くと仕事でつまずいても他人に助けを求め無くなり、自分も他人を助けようとしなくなることが知られています(R)。
私たちの行動は知らず知らずのうちに何らかのプライミング効果を受けているようですね。ただ、同じプライミングを受けているとだんだんと慣れてくるということも言われています。
では、プライミング効果をどのように生活に活用していけるのでしょうか?
プライミング効果の活用法
印象的な広告や商品を作りましょう写真や映像、音、キャラクターなどに工夫を凝らすことで印象に残りやすくなります。また、口コミでも広がりやすくなりプライミング効果が強まります。
なぜその商品を買わなければならないのか問題を提示することも有効です。
例えば、歯のクリーニングを呼びかけるとします。普通に歯のクリーニングで入れ歯を予防できますよ、と呼びかけるのではあまり効果がありません。それよりかは70歳で入れ歯になる人が70%います、というデータや入れ歯になると食べ物の味を感じにくくなり口臭もきつくなるという話を紹介します。
こうしたデータによりプライミングした後に歯のクリーニングで入れ歯を予防できますよ、と呼びかけると「確かに、行った方がいいかもな」と思う人が多くなります。
勉強への活用
勉強でプライミング効果を活かすためには徐々に難易度を上げていきましょう。
最初から難易度を高く設定すると脳が情報を処理しきれなくなります。
最初から専門書を読む前にYoutubeやブログで簡単に勉強しておくことでプライミング効果が働き、専門書を読んだときに話が入りやすくなります。
もし、読むのに時間がかかるようならまだプライミング効果が足りないと考え、一旦レベルの低い教材に頼った方が時間の節約になったりもします。
プライム効果から逃れるには
人は何をするにしてもプライム効果から逃れることはできません。しかし、プライミング効果の程度を抑えることはできます。
例えば、買い物に行くとき事前に何を買うか決めておきます。すると、売り場での広告や宣伝に惑わされることが無くなり「なんでこんなもの買ったんだっけ?」ということが無くなります。
また、基本に戻ることも有効です。
ネットで調べ物をしていていつの間にか本来の目的とは違ったことを検索していた、ということはありませんか?これもネット上の色んな情報にプライミングされたことが原因です。意識的に基本に戻ることで本来の目的を忘れずに情報を集めることができます。
プロスペクト理論
プロスペクト理論とは利益を得るか損するかが不確実な状態の時に極端に損を回避しようとして不合理な選択をしてしまう、という理論です。ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱されました(R)。
例えば次の問題について考えてください。
問題1:次の選択肢の内どちらかを選びなさい
A:50万円が無条件で手に入る
B:コインを投げ表なら100万円、裏なら何も手に入らない
期待値はどちらも50万円なので論理的には半々に別れるはずです。しかし、この問題に対してほとんどの人がAを選びます。
では、次の問題です。
問題2:100万円の負債を抱えている状態で次の選択肢のうちどちらかを選びなさい
A:無条件で50万円が減額される
B:コインを投げ表が出たら全額返済できる、裏が出たら負債額は変わらない
問題1と同じ期待値は50万です。しかし、問題2ではBを選んだ人が多かったのではないでしょうか?
人は利益が見えるとリスクを回避する傾向があり、負債がある状態だと損失をなくすためにリスク追及的になるようです。この様に人は損得が不確実な条件において不合理な決断をしてしまいます。
なぜこの現象が起こるのか?
私たちが損失を過剰に避けようとする理由として下記の心理的効果が知られています。
- 授かり効果
- 現状維持バイアス
- フレーム効果
- 並列評価と単独評価
- 広いフレーミング
こうした効果は神経学的にも解析されており、損失を感じる時の方が脳が過剰に反応することも分かっています。また、脳の偏桃体と呼ばれる部分に障害を持っている場合は損失回避傾向が見られなくなることも分かっています(R)。
授かり効果
自分の持っているものを高く評価してしまうことを言います。
持っているものに対して愛着が湧くことや自分の持っているものに対して肯定的になりやすいことが原因とされています。
また、この効果は自己肯定感が強いとより強くなるようです。
そのため、失うことのデメリットを強く感じてしまいます。ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーは有名な経済学の教授が自分の持っているワインを定価よりもかなり高い値段でしか売ろうとしなかったのを見て合理的でない行動と指摘したようです。(この頃はプロスペクト理論が受け入れられておらず不合理な決断をしてしまうのは未熟だからだという指摘をされていた時代でしたのでかなりの説得力があった様です。)
現状維持バイアス
未来の不安を避け、現状を維持することに価値を見出すことを言います。リスクをとることで利益が得られる場合でもリスクばかりに注意が向いてしまい利益の事を考えられません。
神経症的性向と言われる個性を持っているとこうしたバイアスがかかりやすくなるそうです。不安や恐怖を自分の中で大きくしてしまい、行動できなくなるようです。
フレーム効果
下記の文章を読んでどう感じるでしょうか?
- 術後1ヶ月の生存率は90%です。
- 術後1ヶ月の死亡率は10%です。
同じことを言っているにも関わらず1番の方が安全な手術だと感じたのではないでしょうか?このように同じ情報にも関わらず、フレームが違うと感じ方が変わります。
では、下記の場合はどうでしょうか?
- 子供に対する控除額は低所得者よりも高所得者を多くするべき。
反感を感じたのではないでしょうか?理由は高所得者に有利な控除に反対したからです。これは子供がいない時を基準に考えたためであり、逆に子供がいることを基準に考えることもできます。そこで、次の文章を読んで見てください。
2. 子供のいない低所得者は子供のいない高所得者と同じ追加納税をするべき。
2番に関しても反感を感じたのではないでしょうか?しかし、論理的に考えると1番で反感を感じた人は2番に反対することはできません。
1番で低所得者が高所得者よりも高額かもしくは同等の控除を受けるべきだというのであれば2番の子供がいないことに対しての同等の追加課税を受け入れなければならないと考えるはずだからです。
こうしたフレーム効果を考える場合、フレームが心象を歪めていると考えるのではなく自分の好き嫌いによって心象が歪められていると考えなければなりません。
フレーム効果の可能性がある時には心の中で再フレーム化することでバイアスを取り除く事ができるとされています。最初の問題で何も感じなかった人はおそらく即座に生存率90%を死亡率に置き換えて判断したためだと思います。
並列評価と単独評価
下記の文章を読んで見てください。
- この病気にかかると1万人に1286人が死亡します。
- この病気にかかると100人に24人が死亡します。
直感的に考えると数字の大きい1番の方が危険に思えます(鮮明な情報によるバイアス)。しかし、並列(再フレーム化)して考えると2番の方が1万人に2400人が死亡するので2倍危険だという事がわかります。
日常生活の中では単独で評価する事が多いためこうしたバイアスに気づきません。法制度に見られる一貫性の欠如も単独評価が原因のものが多く、できるだけ広い枠組みで情報を集め並列評価することで一貫性を持った判断ができます。これを広いフレーミングといいます。
広いフレーミング
次の選択肢を全て読んでからどちらにするか決断してください。
問1
A; 確実に24万円もらう。
B; 25%の確率で100万円もらえるが75%の確率で何ももらえない。
問2
C; 確実に75万円失う
D; 75%の確率で100万円失い25%の確率で何も失わない
おそらく、AとCに強く反応しAは良いがCは嫌だと思ったのではないでしょうか?そのためAとDを選ぶ人が多かったという結果があります。しかし、2つの問いを合わせて考えると下記のようになります。
AとD; 25%の確率で24万円もらえ75%の確率で76万円失う
BとC; 25%の確率で25万円もらえ75%の確率で75万円失う
このようにAとDよりもBとCの方が得だという事がわかります。単独で考えた場合には最適だと思えた回答が2つ合わせた時には最適ではありませんでした。
こうしたことからリスクを取るときには総合的にリスクを考える必要がある事がわかります。
マーケテイングへの応用
上記では私たちが何かを失う事を恐るあまり不合理な選択をしてしまうという話を紹介しました。こうしたバイアスはマーケティングに応用できます。
キャンペーンセールを開く
セールを行うと消費者は後日買い物をするときに「あの時買っとけばよかった」と損をすることを避けるようになります。そのため、消費者の購買意欲が高まり売れ行きが良くなります。
例えば、商品が安くなる時間を設定する、商品に制限を設定する、などがあります。Amazonがやっているように時間をカウントダウンして何時までに購入すると何%割引という商品を設定すると、「今買わないと後で損するかも」という心理を引き出します。
また、期間限定、先着30名様まで、といった宣伝も後で後悔する可能性に注目させる効果があります。
顧客の満足度を最低限確保する
顧客は使っていたサービスを変える時に新しいサービスで損をするのではないかと心配になります。
良く行く居酒屋だから安心、いつも使っている商品だから信頼できるってことありますよね。この様に顧客に他社に乗り換えると損すると判断してもらう必要があります。
例えば長く使ってくれている顧客に特権を付与する、顧客の役に立つ情報を提供する、ポイントを付与して割引を行うなどがあります。これらにより顧客の満足度を高め、乗り換える理由をなくす効果があります。
サービスが充実していると他社とあまりにも大きな差がつかない限り乗り換えるリスクを犯そうと考えなくなります。
顧客に商品を使っているところを想像させる
顧客は商品を見て自分が使っているところを想像すると自分がその商品を持っているかのように錯覚してしまいます。逆に想像したにも関わらず、購入せずにいるとその商品を失ったかのように感じてしまいます。
そのため、商品のプロモーションは顧客がイメージしやすい方法が有効です。例えば、その商品を使って幸せそうな写真や動画を用意する、無料体験を行う、顧客の感想を紹介する、などがあります。
顧客はイメージしたことが現実にならないと損をした気分になるので商品の購入意欲が高まります。
損失回避傾向が働かないとき
価格が低いとプロスペクト理論は働きません。10円や20円だけ損したのでは損と感じません。そのため、もっと大きな価格、もしくは長期で大きな差がつくものにしましょう。
情報が少なすぎる
価格も重要ですが、その商品の魅力を知ってもらう必要があります。商品の情報が十分に伝わっていないと他社の製品が高かったとしてもそれだけの価値があると判断します。
ダイソンの掃除機なんかはとても高いのにすごく売れてますよね。「世界一の吸引力が落ちない掃除機」という分かりやすいキャッチフレーズで顧客の心をつかんでいます。
すでにサンクコストを支払っている
サービスに対して既にコストを支払っていると損失回避傾向が抑えられるようです。支払いの一部を済ませてしまうとそこで支払いを辞めることの方が損するように感じます(R)。
映画や演劇の前売り券を買ってしまうと当日が雪で外に出るリスクが高くても行こうとしますよね。
アンカリング
アンカリングとは…相場がわからない物の値段について考える時に全く関係のない数字だとしてもその数字を基準に考えてしまうことを言います。
例えば、1974年にAmos Tversky と Daniel Kahneman が発表した論文では学生たちを下記の2つのグループに分けて計算をしてもらいました。
1×2×3×4×5×6×7×8を解くグループ(①)
8×7×6×5×4×3×2×1を解くグループ(②)
時間をかければ簡単に答えられる問題ですがポイントは制限時間が5秒という所です。計算が間に合わないため学生たちは当てずっぽうに答えます。
その結果、①のグループの平均が512、②のグループは2250となりました。
②のグループは8から聞いたため大きい数字にアンカリングされたと考えられます。逆に①のグループは1から聞いたために小さい数字にアンカリングされました。
この様に人は最初に聞いた数字に引きずられて意思決定をするようです。ちなみに正解は40320です。
なぜ、アンカリンクが起きるのか?
アンカリングが起きてしまう原因として2つのプロセスが考えられています。
調整プロセスとしてのアンカリング
未知の数値を考える時にとりあえず仮となる数値を置いてそこから本当の正解に近づけるように調整していくことを言います。
例)富士山の山頂では何度で沸騰しますか?という質問を受けた時に100度以下であることは間違いないから100から引いて考えようとします。
プライミング効果としてのアンカリング
未知の数値を考える時に最初の質問に暗示を受けてしまうことを言います。
例)ドイツの平均気温は20度よりも高いでしょうか?という質問の後に一瞬だけいくつかの単語が書かれたカードを見せます。その後何が書かれたカードが含まれていたか思い出してもらいます。質問を受けたグループでは質問を受けなかったグループよりも太陽や海岸など夏を連想させる単語をすぐに思い出しました。
このようにプライム効果により全く関係のない情報が記憶にも影響を与えます。
ビジネスへの応用
アンカリングは価格設定の時にしばしば使われています。例えば、値札に定価の値段を書いておき、それを消して30%引きの値段を書くことでお得感がでると言う戦略があります。
他にも下記の例があります。
・店の入り口に価格の高い商品を置いておく
・一か月だけのプランよりも1年間のプランの方が一か月分の料金が安い
・iPhoneのように新機種の値段を徐々に上げていく
・「お一人様10個まで」のような張り紙をしておく
アンカリングは価格設定以外にも様々な場面で使われていますので紹介していきます。
会社のデザイン
会社のロゴなどのデザインにもアンカリングが使われています。ウェブサイトのデザインは顧客を引き付ける効果があります。
第一印象は1秒もかからずに決まるため、パッと見て顧客が有益だと判断するデザインにしましょう。この一瞬でアンカリングができれば顧客がサービスを買ってくれる可能性が高まります。
値段交渉
外部に業務を委託するときや他の企業との契約を行うときに安い値段を持ち掛けます。相手がその値段にアンカリングされるので交渉を有利に進めることができます。
企業の強みと一緒に伝えると効果的です。破格の値段設定でもそれだけの理由があると納得させることができます。ただ、相手の予想よりも何倍も差がある金額を提示すると相手があきらめてしまう可能性があるので注意しましょう。
他にも給料や報酬についての交渉をする時に先に数字を提示することでより高いお金を得る可能性が高まります。
プロジェクトの立ち上げ
何か新しいプロジェクトを立ち上げる時にうまくいったときの想定を少しだけ過剰に表現しましょう。
低めに見積もるのは簡単ですが、多く見積もることで自分にもプレッシャーを与えれますし、チームのやる気を高める効果が期待できます。この様にアンカリングはチームの士気を高めるのにも使えます。
アンカリングを実践するための3つのステップ
アンカリングをビジネスに使うためには3つのステップがあります。
- データ収集
- 顧客の購入プロセスの検証
- アンカリングの商品を設定する
データの収集
競合する商品の市場での需要や価格に関するデータを集めましょう。他社がどのような価格設定にしているか、どんな特徴があるのか明らかにしましょう。
顧客の需要の検証
集めたデータを基に売れ筋の商品がなぜ売れるのか分析しましょう。どのような需要があるのか推測し自分たちの商品がどの需要を満たすのか考えます。
アンカリングの商品を設定する
顧客に高いと感じさせる商品を設定しましょう。高額にした商品とセットにして安くしたり、他の単品の商品を安くして顧客を取り込みましょう。
ただ、アンカリングのための商品が高すぎて、他の商品を見なくなると「あの店は高いお店」という印象が残ってしまい来店してもらえなくなります。
実際に効果が出ているかを比べられるようにデータを蓄積していきましょう。結果がよければ続ければ良いですし、悪ければ価格設定を調整し直します。
アンカリングを使うときの注意点
アンカリングはビジネスで頻繁に使われているのですが使い方を間違ってはいけません。例えば、本来の値段が1000円の物を通常価格が3000円と偽ってはいけません。景品表示法違反に当たります。詳しくは消費者庁のホームページをご覧ください。
他にも下記の違反の例が紹介されています
- 家電を競合店の平均価格から値引きすると言いながら実際には平均よりも高い値段から値引きしていた。
- メガネ店でフレームとレンズ合わせて「メーカー希望価格の半額」と言っていたが、実際にはメーカーの希望価格がなかった。
不当に安く見せてはいけないということですね。
アンカリングは長期間行わない
キャンペーンなどで一時的に値段を下げるのはいいですが、長期間続くと顧客はその値段設定に慣れてしまいます。
一度慣れてしまうと値段を戻したときに逆効果になるので注意しましょう。
商品によってはアンカリングが効かない
缶コーヒーや駄菓子など相場が明確な商品ではアンカリングが効きません。「この店は高いから他のお店で買おう」という判断になってしまいます。
市場での価格が曖昧だと価格の基準が分からないのでアンカリングが効きやすくなります。
アンカリングから逃れる方法
こうしたアンカリングに左右されたくない、という人もいると思います。アンカリングを受けないためにはとにかく数字を否定しましょう。数字を聞いてしまうと無意識のうちにアンカリングされるので関係ないものの数字であっても否定します。
例えば、何か購入するときはネットの情報と比べて価格を否定する、値段がつかないものであっても他者に見積もりを出してもらい否定する、などの方法があります。値段がすぐに変動する様な場合は常に情報を入れてアップデートする様に心がけましょう。
返報性の原理
返報性の原理とは…人が何か恩を受けた時に恩を返したくなる、と言う現象のことを言います。この現象は1960年代にAlvin Gouldnerによって発見され、その後Robert Cialdiniによってマーケティングにも使われるようになりました。
スーパーの試食を食べてしまうとその商品を買わないと後ろめたい感情が出る、などの戦略があります。
過去の研究では飲食店でお会計の紙をミントと一緒に渡すとチップが3%高まったという研究があります。また、ミントの数を増やすと21%高まると言う結果も得られています(R)。
何か商売をするときに「~を買ってください」、「~はいい商品ですよ」と言っても商品は売れません。
何か物を売るためには社会的規範や道徳的観念など相手の深い領域に入り込む必要があり、そのために返報性の原理に従うことが有効とされています。
返報性を生み出す2つのカテゴリー
返報性を生み出すものとして2つのカテゴリーが知られています。
感情的返報性
言葉で相手の感情をポジティブにする方法です。例えば下記のような言葉が有効です。
- ~してくれてありがとう
- ~してくれてうれしかったです
- ~のおかげで充実した時間が過ごせました
確かにこうした言葉をかけてくれる人のために何かしたいと思いますよね。
ビジネス上の関係だとしてもこうした言葉で関係が上手くいきやすくなります。
物質的返報性
物質的に相手の感情をポジティブにする方法です。例えば下記のような事が有効です。
- お金を貸してあげる
- 着なくなった服をあげる
- 畑で作った野菜をあげる
こうした物質的なものがイメージしやすく、普段の生活でも無料体験や初回割引などよく見るかと思います。
なぜ、返報性の原理が働くのか?
人は相手に何かをしてもらったときに借りを作ったと認識します。たとえ、それがビジネスのためだとしても借りを返さなくてはという心理が働き、後でリターンを返してくれる確率が高まります。
こうした心理は人が集団で生活するようになって培われたとされています。もし、何か恩を受けたのに何も返さなかった場合、「あいつに何をしてやっても感謝しない」と言われ、その人は集団から孤立していってしまいますよね。
そうならないように、私たちには恩を恩で返すという習性が身についています。
この様に私たちは進化の過程で返報性の原理が働くようにプログラムされてきました。こうしたプログラムが組み込まれていますが、とにかく恩を売ればいいというものではありません。相手の利益を考えないと恩着せがましくなりますし、相手に罪悪感を抱えさせるだけになるときもあります。
では、返報性の原理を活かすためにはどのようなことに注意しなければならないのでしょうか?
返報性の原理を使うときのポイント
顧客に自分のためを思ってくれていると認識してもらうことが重要です。決して売り手の自己満足ではなく、細やかな目配り気配りと共に行われなければなりません。
まずは自分から提供する
商品を買ってもらうためにはまずは自分からサービスを提供しなければなりません。見返りを求めるのではなく、心から顧客の利益を願う必要があります。
例えば、化粧品や健康食品などでよく見る無料お試しセットなどです。
一度試せると顧客は安心して商品を買えますし、無料でもらった分お返ししようという気になります。
広告やCMで宣伝するよりも顧客の注意を引き付けることになり、将来的な売り上げに繋がります。
特別感を演出する
サービスを提供するときには特別感を演出しましょう。
例えば、商品を買ってくれた人に対して手書きのメッセージを添える、ノートパソコンを買おうか迷っている人に「今なら無料でケースも付けますよ」と提案する、などです。
一律に同じサービスでなく、個人を見てくれていると感じさせることで恩を受けたという感覚が強まります。
記憶に刻み込む
商品やサービスが記憶に残るものにしましょう。驚くほどの低価格で期待以上の効果が得られた場合、その商品が記憶に残りますよね。
また、商品を選ぶときも親身になって対応してくれる店員は長い間記憶に残ると思います。
こうした価値がブランドとなって顧客との長い関係が維持できるようになります。
関係を持続させる
商品を一回買ってもらったからと言ってそこで終わりではありません。再び購入してもらえるよう感謝の手紙を書いたり、クーポン券を提供しましょう。
もし、商品を気に入ってもらったなら「他の人にもお勧めしてください」と言ってみるのもいいでしょう。顧客と長い付き合いをしているということが他の顧客の注目を集めます。長期にわたってサービスを提供している、という事実が顧客の安心感を高めます。
長く続ける
長く続けることで信頼が生まれます。いきなり素晴らしいサービスを受けても相手を信頼できなければ効果が出にくくなります。
例えば、名前の知らない会社が最新のパソコンを格安で販売してたとしましょう。
その商品は偽物や盗品ではなく本当に良いものなのですが、何か裏があるのではないかと疑ってしまい購入する人が少なくなってしまいます。
そのため、返報性の原理を得るためには自分を信頼してもらわなければなりません。
おとり効果
おとり効果とは…2つの選択肢から選ぶ時に3つ目の選択肢がどちらかに偏っていることでお得感が変わると言う性質のことを言います。
例えば、100円で10個のチョコレートと80円で10個のアメが売られていて、その条件ではチョコレートを選択する人が多かったとします。そこに140円で10個のチョコレートと10個のアメの両方と言う選択肢が追加されるとその選択肢を選んでしまいます。
最初にアメは不要と判断したのに40円余計にお金を払ってしまいます。
他にも心理学者のDan Arielyが行った実験が有名です。100人の学生たちを対象にある雑誌の購読のプランを選択させました。
- ウェブのみで購読可 59ドル
- 紙媒体のみで購読可 125ドル
この2つの選択肢の場合、学生の68%がウェブのみのプランを選びました。しかし、ここにある選択肢を加えるとウェブのみの68%が16%に減少しました。
その選択肢とは ”ウェブと紙媒体両方で購読可 125ドル” です。
ウェブと紙媒体両方のプランと紙媒体だけのプランが同じ値段設定というのはおかしいですよね。でも、この選択肢があることで最初はウェブのみでのプランを選択していた人をより高いプランに動かすことができました。
なぜおとり効果が生まれるのか?
おとり効果が効く理由として「おとり」があることでもう1つの選択肢が魅力的に見えるようになるからだとされています。上記の例では紙媒体のみがおとりとなり、ウェブと紙媒体両方のプランが魅力的に見えるようになったと考えられます。
計算するまでもなくウェブと紙媒体両方のプランの方が得だと思いますよね。そのお得感によってウェブ媒体のみを選んだ人が動かされました。
ビジネスへの応用
おとり効果はプライム効果と同じぐらい様々な場面で見られます。実際にどの様なことが行われているのか紹介していきます。
飲食店での応用
食事をどこで食べようか迷っている時に次の選択肢があったとします。
A:5つ星レストラン 行くまでに30分必要
B:3つ星レストラン 行くまでに5分必要
この選択肢に
C:4つ星レストラン 行くまでに40分必要
という選択肢が加わるとAの選択肢が魅力的に見えてきます。
一方、Cが2つ星レストラン 行くまでに10分必要
という場合はBの選択肢が魅力的に見えてきます。
どちらの場合でも A や B よりも劣っているので A や B が魅力的に見えますね。こうした効果を考えるとお店の立地に戦略が必要ということが分かります。
選挙での応用
選挙の候補者に次の人たちが立候補していたとします(R)。
A:政治経験があり強い政策を持っていて若い立候補者
B:政治経験があり強い政策を持っていて年配の候補者
この候補者たちに
C:政治経験がなく政策も弱く、年配の候補者
が加わるとBの候補者が魅力的に見えてきます。
年配と言う共通点があることで B と比較してしまいがちになります。面接やアイディアの選定などでもおとり効果が使えそうですね。
Appleの例
Macbook Proの選択肢として4つが紹介されています。
A:1.4GHzクアッドコアプロセッサ128GBストレージ 139,800円
B:1.4GHzクアッドコアプロセッサ256GBストレージ 159,800円
C:2.4GHzクアッドコアプロセッサ256GBストレージ 198,800円
D:2.4GHzクアッドコアプロセッサ521GBストレージ 220,800円
買うとしたらどれを選びますか?
おそらく、BかDを選んだと思います。
A は B のためのおとりで、C は D のためのおとりになっているので B と D が魅力的に見えるようになったからです。
もう少し分析するとAとB、CとDはストレージが2倍になっているだけなのにAとBは2万円、CとDは3万円の差になっていることがわかります。商品の値段に応じてその差を変えることも商売のテクニックになります。
おとり効果の対策
人は論理でなく感情で動くため、分かりやすい比較によって感覚的に飛びついてしまいます。おとり効果から逃れるのはとても難しいのですが、いくつか有効と思われる方法を紹介します。
自分のニーズを正確に把握する
自分が何を求めているのか具体的に把握することでおとりにつられにくくなります。もし、魅力的な商品を見つけたとしても自分のニーズに合っていなければ切り捨てましょう。
おとりを除外して考える
商品が複数ある場合、選択肢を2つに絞りましょう。
おとり効果は3つ以上の商品があるときに発生するので2つにすることでそのままの価値を判断できるようになります。ただ、数が多くなると組み合わせも多くなり複雑になるのであまり活用できません。
単価で考える
何が「おとり」なのか考えるために単価で考えましょう。
明らかに単価が違うものがあればそれが「おとり」です。様々なパラメーターがあり単純に計算できないようにしてあることが多いですが、考え方として有効です。
アンダードッグ効果
アンダードッグ効果とは不利な立場の人を支援したくなると言う現象のことを言います。
例えば、コロナウイルスで閉店しなければならなくなったお店を応援したくなる、災害で両親を無くした人を応援したくなるなど、人よりも不幸な目にあった人を応援したくなりますよね。
アンダードッグと聞くと「負け犬」と訳してしまいがちですが「負け犬」は勝負する前に負けを認め逃げる人の事を言います。しかし、アンダードッグ効果は不利な立場の人が強者や有利な立場の人に立ち向かうことで生まれます。不利でも強者に立ち向かっていくという所に周りの人たちは引き付けられます。
ちなみに、他の人たちと同じものを自分も選んでしまうバンドワゴン効果とは対照的なものとして知られています。
なぜアンダードッグ効果が生まれるのか?
人の共感する力に訴えかけているからだと考えられています。
人が集団で生活していくためには相手の感情や行動を理解する必要があります。それぞれが自分のしたい事ばかりしてしまうと集団生活が成り立たないですよね。
そのため、私たちはミラーニューロンという神経細胞を発達させてきました。ミラーミューロンは他人に共感する時に活性化し、不利な立場の人が頑張っているのを見ると応援したくなります。
例えば事故で車いす生活になった人が障害に負けずパラリンピックを目指してる話を聞くとミラーニューロンが活性化し応援したくなります。人は少なからず努力した過去を持っているのでその時の感情を思い出し、何とかその努力を叶えてあげたいと感じます。
アンダードッグ効果に必要なもの
アンダードッグ効果が現れるためには
・不利な状況と認識されているか
・共感を得られるほどの努力をしているか
が重要になります。
ハーバード大学が行った研究によると不利な状況と認識されていない場合、どんなに高い情熱をもって努力しても努力をしていない人と同じぐらいしか商品を売ることができませんでした。一方、不利な状況と認識された場合には努力することで商品がより売れるようになっていました。
このように不利な状況と努力の量が合わさってアンダードッグ効果が生まれることが証明されています。
文化による影響
アンダードッグ効果は文化の影響も受けます。例えばサクセスストーリーの映画がよく見られている文化の場合、アンダードッグ効果が得られやすくなります。
しかし、保守的で今の大企業を脅かすと生活が立ち行かなくなると考えてる文化の場合、アンダードッグ効果は得られにくくなります。
アメリカは自由主義でGAFAなどの大企業が次々と出てくるのでアンダードッグ効果が得られやすい文化とされています。一方、アジアの国々は世襲制や個人のアイデンティティが固定化して保守的なためアンダードッグ効果が得られにくいとされています。
日本ではお金は汚いとか、金持ちだけが得をして庶民が国を支えてる、という考えに美徳を感じていて成功者を叩き潰す傾向があります。成功者をたたく文化だと新たな成功者が出にくくなるので変えていかなければなりませんね。
マーケティングへの応用
アンダードッグ効果はマーケティングに使われています。
例えば商品を売り込んできた人が「この会社は少ない従業員で朝早くから必死に働いてるんですけど、他社の製品が強くてなかなか売れないんですよね。良かったら試してもらえませんか。」と言うと買って見たくなりますよね。
また、地域の小さなお店がつぶれそうなときに「閉店しそうです、助けてください。」と張り紙をしておくと同情が集まり、経営が立て直せたという事例もあります。
もちろん、嘘をついてはいけませんが自分の努力や不利な状況をアピールするってのが大事ですね。
マーケティング以外への応用
アンダードッグ効果はマーケティングの時以外にも現れます。特に純粋に努力している人を応援したくなる時などが当てはまります。その他にもいくつかの例があるので紹介しておきます。
就職面接の場合
有能さを示したくて「これだけ努力して○○を達成しました。」というのもいいですが、「これだけ努力したのですが、○○は達成できませんでした。」というのも相手の同情を引き出し効果があります。
また、その失敗から学んだことも話せるので自分のアピールに繋がります。
恋愛の場合
恋愛でも何でもできる優秀な人よりも不器用で成果を残せない人の方が同情心を引き出してうまくいきやすいという効果もあります。
選挙の場合
選挙のときでは事前に不利な立場だったり、親の介護もしていて大変と報道された方が同情票が集まって勝ちやすくなるということも言われています。
スポーツの場合
スポーツは体格に優れない人が頑張っていると応援したくなります。
例えば、炎鵬のような体格の良くない力士の方が一生懸命応援してもらえたり、メッシのような小さい選手が世界一のサッカー選手と認められると応援されやすくなります。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは多くの人が使っている商品を自分も使ってみたいと思う現象のことを言います。アンダードッグ効果と一緒にしてアナウンス効果とも言われます。
例えば、友達がアマゾンプライム会員だから自分も会員になろう、行列が出来てる飲食店に並びたくなる、など人につられて自分の行動が決定することがありますよね。
バンドワゴンとはパレードの行列の先頭をいく楽隊をのせた車のことです。バンドワゴンが走り出すと後に続く人たちが出てきてその人数が多いほどさらに多くの人を引き付けるようになります。
日本が過去に経験したバブルも同じ現象ですね。土地や株の値段が上がっているからと多くの人たちがそれに追従して大きな流れができてしまいました。普段の生活ではバブルの時ほど大きな波ではありませんが、小さな波がいくつもできています。
なぜバンドワゴン効果が生まれるのか?
バンドワゴン効果が生まれる理由として
・仲間外れにされたくない
・損をしたくない
などの感情が挙げられています。
仲間外れにされたくない
みんなと意見が違うと自分が間違ったことをしているのではないかと心配になりませんか?
人には誰かのための役に立ちたいという欲求があります。
その欲求をかなえるために集団に属し、その集団に奉仕することを好みます。
そのため、はやりの映画や音楽を見たり聴いたりして自分がその集団の一員であると認識できないと不安になってしまいます。
例えば、最初はそこまで好きじゃなかったアーティストや政治家が周りの友達が好きになるつれて自分もだんだんと好きになってくる、という現象が当てはまります。
損したくない
人は自分が損をすることに過剰に反応してしまいます。この現象はプロスペクト理論でも紹介しました。
私たちは損をしたくないという心理が働くと周りの人たちのマネをして損するリスクを減らそうとします。また、他人と同じ行動する方が正しいというバイアスがかかることも知られています。他人と違う行動をとって間違ったときにはその時の記憶が強く頭の中に残ります。
そのため、次に同じような状況になった時に周りと同じことをした方が正しいと判断してしまいます。
例えば、降水確率が50%と聞くとほとんどの人が傘を持って出かけると思います。しかし、確率が50%なので50%の人が傘を持って出なければおかしいですよね。これも損をしたないと過剰に反応したためと考えられます。
マーケティングへの応用
バンドワゴン効果はマーケティングにも応用されています。
例えば、飲食店のテーブルの数をわざと減らすことにより行列ができやすくなりバンドワゴン効果が生まれます。
また、「人気No1」とか「○○大賞受賞」というのもバンドワゴン効果をもたらします。さらに、こうした見出しは人が選択するときの思考を簡単にしてくれるのでヒューリスティックバイアスの効果もあるとされています。
一度バンドワゴンが走り出してしまえば次々と群れが出来上がるので指数関数的に人が集まってきます。恐ろしいマーケティング手法ですね。
逆にスノッブ効果に働きかけるためには「ここでしか買えない」とか「オリジナル作品」とかのキーワードを入れるとよいでしょう。
バンドワゴンのような群衆を引き付ける力はありませんが、人気が出てくればバンドワゴンのような状態になっていくかもですね。
バンドワゴン効果の影響を受けない人
他人につられて行動を決めてしまうというバンドワゴン効果ですが中にはこの現象が見られない人もいます。
自己効力感が高い人
自己効力感が高いと周りに流されにくくなります。自己効力感とは自分が周りに影響を与えれるという信念の事です。成功体験が多い人は自己効力感が高くなり他人の意見に左右されなくなることが知られています。
例えば、自己効力感が高い起業家はプロスペクト理論通りに行動しないことが知られています。自己効力感が高いため、過去の失敗に捕らわれることなく次々と新たな挑戦をしていきます。
確かに自分に自信があれば仲間外れにされても、損する可能性があってもチャレンジングなことに挑めそうですよね。
希少性を重視する人
個性が違えば同じものを見ても感じ方が違います。
例えば、希少性を重視する人はみんなが買うから自分は買わない、という決断をします。
こうしたみんなが持っているから欲しくないという心理になることをスノッブ効果と呼びます。希少性を重視する個性の人はスノッブ効果が表れやすく、お店で買ったものよりも手作りの物に価値を置いていたり、サプライズなどの体験を重視します。
心理学における性格診断にはビッグ5というものが使われることが多いです。
その中の神経症的性格というのは些細なことにも不安になるかを測定しており、この数値が低い人ほどスノッブ効果が表れやすいと考えられています。
ソーシャル・プルーフ
ソーシャル・プルーフとは社会的に信頼されているものからの情報を無条件に信じてしまう現象のことを言います。
ソーシャル・プルーフの例として下記の例が入ります。
- オンラインショップで商品を購入する人の61%はレビューを気にしている
- 18歳から34歳の91%はレビューを身近な人からのおススメと同程度に信用している
- インフルエンサーからの紹介で商品の売り上げが5.2倍上昇する
この現象に当てはまる人も多いのではないでしょうか?私も何かを購入するときにはこの商品のレビューを見て信用できるか判断します。
では、どうしてこのような現象が起きるのでしょうか?
なぜソーシャル・プルーフが起こるのか?
ソーシャル・プルーフを引き起こす原因として不確実性が考えられています。
新しい商品を買うときや行ったことのない場所に旅行に行くときなど自分のニーズを満たせるかどうか自分では判断できません。そのため、他人の意見や周りの人々の動きなどを参考に信用できるものに従うようになります。
何を信用するかはその人の個性と状況で変わるのですが、大きく分けて3種類あることが知られています。
- 類似性
- 専門性
- 数の多さ
類似性
自分と似た人の意見なら信用できるということです。
スタイルのいい人がおススメする服が太っている人にも似合うかどうかは分からないですよね。たぶん、自分には似合わないと判断してその商品を買わないと思います。
専門性
専門家の意見なら信用できるということです。
病気になったときには医者の言うことを信用しますよね。病気の知識がないとどう対処してよいのか分からないので医者の言ったことを信用します。
数の多さ
他の人も同じことをしていたら信用できるということです。
初めてきた街でほぼ満席の飲食店と誰も客のいない飲食店だとどちらを選びますか?おそらく、ほぼ満席の店を選ぶと思います。客が多いのだからおいしい料理が食べれるだろうと判断してしまいます。
これはバンドワゴン効果とも似ているので下記の記事も見てもらえたらと思います。
ソーシャル・プルーフを検証した実験
ソーシャル・プルーフを検証した研究として1951年にAschが行った実験が有名です。YouTubeに良い動画があったので参考にしてください。
この動画で行っているのは3種類の線の長さを比べ、どれが目的の長さの線かを選ぶという実験です。
グループの中の1人だけが被験者で残りはダミーでわざと間違った選択肢を選ぶよう指示されています。すると、1人で行ったときには間違う確率がほぼ0だったのですが、他の人の影響により12回中1回以上間違う確率が75%まで上昇していました。
この様に正解が分かっていても周りの判断を参考にするために間違った判断をしてしまうようです。人がいかに周りに流されやすいかが分かりますね。
ビジネスへの応用
ソーシャル・プルーフはどのように役立てる事ができるのでしょうか?
主な方法として下記の3つが知られています。
- ポジティブなレビューをしてもらう
- インフルエンサーや表彰の活用
- 顧客の数を宣伝する
ポジティブなレビューをしてもらう
ネットでの販売が増加している中でレビューの役割が大きくなっています。
あらゆる商品を簡単に調べることができるため、それぞれの商品の特徴を吟味して自分にとってベストなものを選ぶのは大変難しい作業になっています。そのため、レビューに基づいて購入すると言う方法がコスパの良い方法になっています。
BrightLocal社の調査によると88%の人がオンラインショップでのレビューを信用しているという結果が得られています。また、レビューを確認するのは2〜3個という人が1番多く59%でした。続いて1個が20%、4〜5個が16%という結果になっています。
さらに、5段階評価の3以上でないと商品を購入しないと答えた人は42%で一番多いという結果になっています。この結果からもレビューの重要性が分かると思います。
インフルエンサーや表彰の活用
インフルエンサーや「○○セレクション金賞」なども相手からの信用を引き出します。信用できる人や団体からのお墨付きがあれば商品を買ってみようと思いますよね。
BrightLocal社の調査によると49%の人はツイッターでのインフルエンサーからのおススメを頼りにしていると答えています。また、その商品を出した企業よりもインフルエンサーからの紹介の方が8倍以上シェアしてもらえる可能性が高まりまることも分かっています。
ただ、フォロワーが多ければよいというものではなくてインフルエンサーの働きかけで動いてくれるフォロワーがどれだけいるかを調べていく必要があると指摘されています。
顧客の数を宣伝する
例えばマクドナルドは90億人分の食事を提供していると宣伝しています。これだけ多くの人が利用しているのであれば自分も利用してみようという心理になってしまいますよね。
また、自分だけ知らないということになればコミュニティーから省かれたように感じになってしまいます。そのため、「有名だしサービスを使ってみよう」と言う気持ちになります。
バーダー・マインホフ現象
バーダー・マインホフ現象とは自分にとって新しいものや考え方、パターンを知ったときに無意識にその新しいものや考え、パターンを探してしまうという現象の事です。
あまり知られていない便利な道具を買ったと思ったら周りの友達も使ってたり、本で新しく学んだ知識がニュースで当たり前のように使われていたり、などが当てはまります。
バーダー・マインホフ現象の由来
バーダー・マインホフとは1970年代に誘拐や殺人などのテロを行った西ドイツの民兵組織が由来になっているそうです。
アメリカのコメンテーターがこの組織について知ったとき24時間のうちに2回もこの組織の名前を聞いたことがあったそうで、その時にバーダー・マインホフ現象と名付けたようです。ちなみに、民兵組織の暴力的行為とは何も関係ありません。
なぜこの現象が起こるのか?
原因として無意識のうちに自分の知っている情報に注意が向くようになるからと言われています。
普段の生活の中で見たり、聞いたりする情報量は多すぎて処理しきれません。道路の交通標識を毎日見てる人はいないでしょうし、人が話している声や風の音など耳に入っていても認識していないですよね。
全ての情報についていちいち考えていると脳がすぐに疲れ切ってしまいます。そのため、私たちは自分に必要な情報だけに注意を向けてそのほかの情報を遮断しています。新しいことを学ぶとその情報も必要なものと認識されるので、今まで遮断していた情報が入ってくるようになります。
こうした現象は頻度錯覚や確証バイアスとしても知られており、自分に都合の良い情報ばかりを集めて安心したいという心理からきているとされています。つまり、もともとあったものに興味が湧いて気づくようになっただけということです。
ほとんどの人は「自分が知ったタイミングで他の人も知った」と錯覚してしまい、何か特別なことが起こっているように感じます。落ち着いて考えるとそんなわけはないのですが、人は自分が特別な存在でありたいと願っているのでこうした錯覚が起きてしまいます。
この現象は科学者にも起きます
大きなブレイクスルーに繋がる発見をしても最初は他の研究者は興味がないため見向きもされません。しかし、それに関わる研究を続けているとその研究について学ぶ人が出てきて徐々に他の研究とのコラボが促進されます。
そのうち、多くの人がこの研究の価値を認識するようになり、後からこの研究に興味をもった人は自分が知ったタイミングで他の人もこの研究を行うようになったかのような錯覚を持ちます。
毎日様々な情報を処理している研究者でもこのような現象が起こるので一般人ならなおさらでしょう。
マーケティングへの応用
目につくキャッチコピーや印象的なCMなどはバーダー・マインホフ現象を引き起こします。
無意識に情報が刷り込まれ、「なんかやたらとこの商品が目に付くな。」と感じるようになります。そのうち、何度も目に付くということは人気商品である可能性や自分の欲しいものである可能性が高い、と判断してしまいその商品を買うようになってしまいます。
テレビやネットを見ていると知らず知らずのうちにこうした広告の影響を受けてしまうってことですね。
例えば、楽天カードマンのCMは印象的でクレジットカードを調べるときに一番目に付くかと思います。また、auのCMも三太郎というキャラクターを前面に出して印象的なので、どのキャリアにしようか迷ってる人が検索しやすくなります。
生活への応用
バーダー・マインホフ現象は生活にも影響を与えます。
例えば、株の購入を考えていて良い銘柄を友人から聞いたときにはその株価がすでに高騰していたと言うことがあります。
知らないのは自分だけで他の人はとっくに気づいています。それにもかかわらず、もっと高騰すると思って買ってしまい、その後の株価は下がる一方なんてこともよくあります。
何か有用な情報をつかんでもまずはバーダー・マインホフ現象を疑いましょう。知らないのは自分だけかもしれないので情報は時間とセットで考えなければなりません。もしその情報が1年前のものだとしたらバーダー・マインホフ現象が起きているので、世間から注目されていてももう遅いでしょう。
情報が出てから瞬時の判断で動かなければ勝つのは難しいです。
まとめ
今回はマーケティングに使える心理学について紹介しました。
システム1が直感的に判断してくれるおかげで日々の数多くの判断ができるのですが、必ずしも合理的ではないようです。
こうした人間の性質をマーケティングに利用するのは悪いことのように感じるかもしれませんが、それで消費者が満足感を得て幸せになるのも事実です。
何が正しいか?ではなく人が幸せになることが正しいことだと思うので紹介しました。参考にしてもらえればと思います。
参考文献
・ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
・The Underdog Effect: The Marketing of Disadvantage and Determination Through Brand Biography
・Conformity in Groups: The Effects of Others’ Views on Expressed Attitudes and Attitude Change
・The effects of information and social conformity on opinion change
・How to Use Reciprocity in Marketing and Grow Your Business
・Could Ralph Nader’s Entrance and Exit Have Helped Al Gore? The Impact of Decoy Dynamics on Consumer Choice
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- 本 完成