プロスペクト理論とは?人は過剰に損を恐れている話
理屈では分かっていてもリスクを恐れて行動できないってことありませんか?
損失回避傾向が原因です。
人は何かを失うことが怖いため、論理的に得する状況があったとしても思い切ってチェレンジすることができません。
今回はこうした損失回避傾向について紹介します。
プロスペクト理論とは?人は過剰に損を恐れている話
損失回避傾向とは利益を得るよりも損をすることを過剰に避けようとする傾向の事を言います。
ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱されたプロスペクト理論の中で説明されています(R)。
例えば次の問題について考えてください。
問題1:次の選択肢の内どちらかを選びなさい
A:50万円が無条件で手に入る
B:コインを投げ表なら100万円、裏なら何も手に入らない
期待値はどちらも50万円なので論理的には半々に別れるはずです。
しかし、この問題に対してほとんどの人がAを選びます。
では、次の問題です。
問題2:100万円の負債を抱えている状態で次の選択肢のうちどちらかを選びなさい
A:無条件で50万円が減額される
B:コインを投げ表が出たら全額返済できる、裏が出たら負債額は変わらない
問題1と同じ期待値は50万です。
しかし、問題2ではBを選んだ人が多かったのではないでしょうか?
人は利益が見えるとリスクを回避する傾向があり、負債がある状態だと損失をなくすためにリスク追及的になるようです。
これを損失回避傾向と言います。
なぜ、このような現象が起こるのでしょうか?
なぜ損失回避が起こるのか?
私たちが損失を過剰に避けようとする理由として下記の心理的効果が知られています。
- 授かり効果
- 現状維持バイアス
こうした効果は神経学的にも解析されており、損失を感じる時の方が脳が過剰に反応することも分かっています。
また、脳の偏桃体と呼ばれる部分に障害を持っている場合は損失回避傾向が見られなくなるそうです(R)。
授かり効果
自分の持っているものを高く評価してしまうことを言います。
持っているものに対して愛着が湧くことや自分の持っているものに対して肯定的になりやすいことが原因とされています。
また、この効果は自己肯定感が強いとより強くなるようです。
そのため、失うことに強いデメリットを感じてしまいます。
リチャード・セイラーは有名な経済学の教授が自分の持っているワインを定価よりもかなり高い値段でしか売ろうとしなかったのを見て合理的でない行動と指摘したようです。
現状維持バイアス
未来の不安を避け、現状を維持することに価値を見出すことを言います。
リスクをとることで利益が得られる場合でもリスクばかりに注意が向いてしまい利益の事を考えられません。
神経症的性向と言われる個性を持っているとこうしたバイアスがかかりやすくなるそうです。不安や恐怖を自分の中で大きくしてしまい、行動できなくなるようです。
こうした損を回避しようとするバイアスのせいで私たちは不合理な選択をしてしまいます。その例としてフレーミング効果を紹介します。
フレーム効果によるバイアス
下記の文章を読んでどう感じるでしょうか?
- 術後1ヶ月の生存率は90%です。
- 術後1ヶ月の死亡率は10%です。
1番の方が安全な手術だと感じたのではないでしょうか?このように同じ情報にも関わらず、フレームが違うと感じ方が変わります。
では、下記の場合はどうでしょうか?
- 子供に対する控除額は低所得者よりも高所得者を多くするべき。
1番の時は反感を感じたのではないでしょうか?理由は高所得者に有利な控除に反対したからです。これは子供がいない時を基準に考えたためであり、逆に子供がいることを基準に考えることもできます。そこで、次の文章を読んで見てください。
2. 子供のいない低所得者は子供のいない高所得者と同じ追加納税をするべき。
2番に関しても反感を感じたのではないでしょうか?
しかし、論理的に考えると1番で反感を感じた人は2番に反対することはできません。
1番で低所得者が高所得者よりも高額かもしくは同等の控除を受けるべきだというのであれば2番の子供がいないことに対しての同等の追加課税を受け入れなければならないと考えるはずだからです。
こうしたフレーム効果を考える場合、フレームが心象を歪めていると考えるのではなく自分の好き嫌いによって心象が歪められていると考えなければなりません。
フレーム効果の可能性がある時には心の中で再フレーム化することでバイアスを取り除く事ができるとされています。
最初の問題で何も感じなかった人はおそらく即座に生存率90%を死亡率に置き換えて判断したためだと思います。
並列評価と単独評価
下記の文章を読んで見てください。
- この病気にかかると1万人に1286人が死亡します。
- この病気にかかると100人に24人が死亡します。
直感的に考えると数字の大きい1番の方が危険に思えます(鮮明な情報によるバイアス)。
しかし、並列(再フレーム化)して考えると2番の方が2倍危険だという事がわかります。
日常生活の中では単独で評価する事が多いためこうしたバイアスに気づきません。
法制度に見られる一貫性の欠如も単独評価が原因のものが多く、できるだけ広い枠組みで情報を集め並列評価することで一貫性を持った判断ができます。
これを広いフレーミングといいます。
広いフレーミング
次の選択肢を全て読んでから決断してください。
問1
A; 確実に24万円もらう。
B; 25%の確率で100万円もらえるが75%の確率で何ももらえない。
問2
C; 確実に75万円失う
D; 75%の確率で100万円失い25%の確率で何も失わない
おそらく、AとCに強く反応しAは良いがCは嫌だと思ったのではないでしょうか?そのためAとDを選ぶ人が多かったという結果があります。
しかし、2つの問いを合わせて考えると下記のようになります。
AとD; 25%の確率で24万円もらえ75%の確率で76万円失う
BとC; 25%の確率で25万円もらえ75%の確率で75万円失う
このようにAとDよりもBとCの方が得だという事がわかります。単独で考えた場合には最適だと思えた回答が2つ合わせた時には最適ではありませんでした。
こうしたことからリスクを取るときには総合的にリスクを考える必要がある事がわかります。
マーケテイングへの応用
上記では私たちが何かを失う事を恐るあまり不合理な選択をしてしまうという話を紹介しました。こうしたバイアスはマーケティングに応用できます。
キャンペーンセールを開く
セールを行うと消費者は後日買い物をするときに「あの時買っとけばよかった」と損をすることを避けるようになります。
そのため、消費者の購買意欲が高まり売れ行きが良くなります。
例えば、商品が安くなる時間を設定する、商品に制限を設定する、などがあります。
Amazonがやっているように時間をカウントダウンして何時までに購入すると何%割引という商品を設定すると、「今買わないと後で損するかも」という心理を引き出します。
また、期間限定、先着30名様まで、といった宣伝も後で後悔する可能性に注目させる効果があります。
顧客の満足度を最低限確保する
顧客は使っていたサービスを変える時に新しいサービスで損をするのではないかと心配になります。
良く行く居酒屋だから安心、いつも使っている商品だから信頼できるってことありますよね。
この様に顧客に他社に乗り換えると損すると判断してもらう必要があります。
例えば長く使ってくれている顧客に特権を付与する、顧客の役に立つ情報を提供する、ポイントを付与して割引を行うなどがあります。
これらにより顧客の満足度を高め、乗り換える理由をなくす効果があります。
サービスが充実していると他社とあまりにも大きな差がつかない限り乗り換えるリスクを犯そうと考えなくなります。
顧客に商品を使っているところを想像させる
顧客は商品を見て自分が使っているところを想像すると自分がその商品を持っているかのように錯覚してしまいます。
想像したにも関わらず、購入せずにいるとその商品を失ったかのように感じてしまいます。
そのため、商品のプロモーションは顧客がイメージしやすい方法が有効です。
例えば、その商品を使って幸せそうな写真や動画を用意する、無料体験を行う、顧客の感想を紹介する、などがあります。
顧客はイメージしたことが現実にならないと損をした気分になるので商品の購入意欲が高まります。
損失回避傾向が働かないとき
価格が低いと損失回避傾向が起きません。
10円や20円だけ損したのでは損と感じません。
もっと大きな価格、もしくは長期間で大きな差がつくもの出なければ損失回避傾向は働きません。
情報が少なすぎる
価格も重要ですが、その商品の魅力を知ってもらう必要があります。
商品の情報が十分に伝わっていないと他社の製品が高かったとしてもそれだけの価値があると判断します。
ダイソンの掃除機なんかはとても高いのにすごく売れてますよね。「世界一の吸引力が落ちない掃除機」という分かりやすいキャッチフレーズで顧客の心をつかんでいます。
すでにサンクコストを支払っている
サービスに対して既にコストを支払っていると損失回避傾向が抑えられるようです。
支払いの一部を済ませてしまうとそこで支払いを辞めることの方が損するように感じます(R)。
映画や演劇の前売り券を買ってしまうと当日が雪で外に出るリスクが高くても行こうとしますよね。
まとめ
今回は損することを過剰に避ける損失回避傾向について紹介しました。
プロスペクト理論では人が合理的に選択しないという指摘をしています。
しかし、利益と損失は対称的な関係があるわけではありません。例えば、投資で最初に50%の損失を出すと次の投資で100%の利益を出さないともとには戻れません。
また、利益でなく損に反応することでより改善が促進されるという面もあります。
そういったことを考えると合理的に判断しないことが合理的なのかもしれないと思います。
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