間葉系幹細胞(MSC)による再生医療の可能性
間葉系幹細胞(MSC)と言う細胞を知っていますでしょうか?マスコミではiPS細胞ばかりに注目が集まっていますがMSCの方が臨床研究が進んでいます。いくつかはすでに上市しており多くの患者を救っています。今回はこのあまり知られていないMSCについて解説していきます。
間葉系幹細胞(MSC)による再生医療の可能性
未だ治療方法が確立されていない疾患は333種類報告されており、日本全体で約90万人の患者がいるとされています(平成29年のデータより)。
こうした疾患の多くは体内に本来備わっている回復機能が機能しなかったり、誤作動しているために起きています。
MSCにはそれらの機能を助け、正常に戻す効果があることが知られています。その上、MSC自体は免疫拒絶に合いにくいという特徴を持っているため、一度採取した細胞を大量に培養し多数の患者に移植するなど商業化も可能です。
MSCは骨髄や脂肪組織、臍帯など様々な場所から採取することができますが、採取した場所によって性質が違う可能性も示唆されています。
しかし、基本的にどこから採取したMSCでも体外で増殖させ再び体内に戻すことで様々な病気からの回復が期待されています。
MSCの特徴
MSCはFridenstainによってその存在が明らかになりました。線維芽細胞に似た細胞ですが低密度で培養するとコロニーと呼ばれる塊が形成され、高い増殖能を示します。
他にも様々な特徴が発見されMSCの定義が確立されていきました。
特徴(MSCの定義)
- 表面マーカー;CD73、90、105がポジティブ(細胞集団の95%以上が発現している)であり、CD45、34、14か11b、79aか19、HLA-DRがネガティブ(細胞集団の2%以下が発現している)であること
- プラスチックの容器に接着できる
- 骨、脂肪、軟骨への分化
MSCの特徴で重要なのはHLA-DRがネガティブなことです。これにより他者の細胞を移植(他家移植)しても免疫による拒絶反応が起こりにくいだろうと考えられ、病気を持った骨や軟骨に置き換えることができないか研究が進められてきました。
研究が進むうちにMSCの新たな特徴が見えてきました。それはMSCが放出する物質が様々な疾患の治療に役立つというものです。
MSCが放出するサイトカインやグロースファクター、miRNAと呼ばれるものによって免疫機能が正常に回復したり、疾患によって失われていた細胞が復活するという現象が明らかになりました。
これにより骨、軟骨だけでなく免疫機能が関わる様々な疾患の治療の可能性が見えてきました。
さらに、細胞を使わずに済む可能性も見えてきたため、極めてリスクの低い方法で治療ができるようになる可能性もでてきました。
今ではMSCを球状に加工したり、シート状に加工してさらに治療効果を高めようとする研究も出てきています。
MSCを用いた難病治療
MSCを使った製品はいくつか上市されています。また、今後が期待できる製品についても紹介します。
テムセル®HS注
JCRファーマによって開発された造血幹細胞移植後に発症する重篤な合併症である急性移植片対宿主病(急性GVHD)の治療製品。2016年2月から日本初の他家由来の再生医療等製品として販売を開始。
自家培養軟骨
J-TECによって開発された整形外科領域では国内初となる再生医療等製品。膝関節の外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)を対象にしており、2013年4月より保険が適用されています。
SB623
サンバイオによって開発された外傷性脳損傷を対象とした製品。上市には至っていないが脳梗塞以外にも脊髄損傷や加齢黄斑変性などにも応用が期待されている(2019年10月時点)。
まとめ
アベノミクスの第3の矢に再生医療が含まれていますが、なかなか発展できていません。アメリカなどでは長期的に見て投資する文化があるのですが、日本では短期で利益を得ようとする投資が行われている様です。
こうしたお金の面でのサポートを行う文化を形成していかないと再生医療も発展していかないと思います。
まずは一般の方にも再生医療のことについて知ってもらうことでバラマキと言われないための理解を深めてほしいと思います。
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