心不全の再生医療
心不全とは心臓の機能障害によって呼吸困難や倦怠感、浮腫が出現し運動機能が低下する症状のことを言います。成人では、虚血性心疾患、高血圧、心筋症、不整脈、弁膜症等が心不全の原因となります。日本における心不全の患者数は2015 年で約120 万人と推計されています。今後は、生活習慣の欧米化や高齢化により、心不全の患者数は増加していくと考えられています。今回は心不全のことについて書いていきます。
心不全の再生医療
一言で心不全と言っても症状の軽い人もいれば、重い人もいて様々です。まずはそう言った心不全の分類をどのように行なっているか見ていきましょう。
分類方法
心不全の分類のために左心室の収縮機能を示す左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction: LVEF)が用いられます。左心室の収縮機能が臨床状態に影響するためです。
分類には次のようなものがあります。
- LVEF40%未満をLVEF の低下した心不全(Hart Failure with reduced Ejection Fraction: HFrEF)
- LVEF50%以上をLVEF の保たれた心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction: HFpEF)
- LVEF40%以上50%未満をLVEF が軽度低下した心不全(Heart Failure with mid-range Ejection Fraction: HFmrEF)
LVEF50%以上の心不全患者は全体の68.7%を占めており、欧米よりも高い水準にあるようです。
心不全の治療方法
次にどのような治療方法が行われているのか見ていきましょう。
薬物治療
LVEF の低下した心不全(HFrEF)の治療に薬物治療が使われます。
左室リモデリングの抑制を目的とした薬物は下記の通りです。
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE 阻害薬)
- アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
その他の薬物は下記の通りです。
- 他にも心筋の興奮の抑制を目的としたβ遮断薬
- 鬱血による労作時呼吸困難や浮腫等の軽減を目的とした利尿薬
- 不整脈による突然死の予防を目的とした抗不整脈薬
- 血管拡張薬や強心薬(ジギタリス)等の薬剤
一方、LVEF の保たれた心不全(HFpEF)に関しては薬物治療はありません。そのため、治療は高血圧等の原疾患に対して行われることが中心になります。
非薬物療法
心不全に対する非薬物治療として次の3つがあります。
- 不整脈による突然死の予防を目的とした植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)
- 伝導障害による収縮不全の改善を目的とした心臓再同期療法( Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)
- 除細動器機能が追加された心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy-Defibrillator: CRT-D)
手術療法
手術療法には機械的循環補助と心臓移植があります。
機械的循環補助としては下記のものがあります。
- 大動脈内バルーンポンプ(Intra Aortic Baloon Pumping: IABP)
- 経皮的心肺補助装置(Percutaneous Cardio Pulmonary Support: PCPS)
- 経皮的補助人工心臓(Ventricular Assist Device:経皮的VAD)
心臓移植は文字通りドナーの心臓を移植することです。
こうした治療法がありますが、万全ではなく下記のような問題があります。
現在の治療による問題点
高い死亡率
心疾患は癌に次いで2 番目に多い死因となっています。
2017 年の調査では、心疾患による死亡は全死亡の約15%を占め、心疾患による死亡のなかでは心不全による死亡が最も多く約40%を占めています。2017 年は約8万人が心不全で死亡しました。
予防・治療の問題
心不全の経過は多くの場合慢性的で長期にわたります。
また、増悪は直線的ではなく徐々に状態が悪化していくため、経過の予測が難しいです。心不全の治療目的は、症状緩和、QOL の向上、長期予後の延長をもたらすことですが、臨床経過の特性によりあまり実践できていません。
植込み型VADの問題
心臓移植の待機期間中、殆どの患者は植込み型VAD を装着します。デバイスの改良が進められているものの、感染症や血栓症のリスクはゼロではなく医療的ケアが必要です。
再生医療等製品の開発状況
心不全における再生医療等製品の開発状況を表に示します。
日本ではテルモ(株)のハートシートが、心不全を対象とする世界初の再生医療等製品として2015 年に承認を受けています。
その他、自家心臓組織由来の心臓幹細胞、自家及び他家骨髄由来の間葉系前駆細胞・間葉系幹細胞、他家iPS 細胞由来の心筋細胞等を用いた研究・開発が国内外で進められています。
現在心不全にて研究・開発が進められている再生医療等製品は、移植された細胞が心筋に分化して問題のある細胞と置き換わるというものではありません。
それよりも、移植・投与される細胞が分泌するHGF、VEGF、SDF-1 等の生理活性物質が血管新生を促進し、線維化を抑制することによって心機能改善効果をもたらすと考えられています。
投与方法については、心臓表面への移植やカテーテル注入による局所へのアプローチが中心となっています。
患者の負担について
ここで挙げた再生医療等製品はいずれも自家組織由来であるため組織採取が必要です。採取時や移植時の侵襲性は、麻酔の種類、組織採取量、移植方法によって影響を受けます。
開胸手術の場合は侵襲性が高くなりますし、カテーテルを使うのであれば侵襲性は低くなります。
ハートシートは骨格筋採取が必要ですし開胸手術で移植するため侵襲性が高くなります。
今後の再生医療
今後の再生医療等製品を開発するためのポイントは次の3つになります。
- 低侵襲。
- 患者のQOLが低下を抑える製品。
- 低コスト。
現在行われている治療では感染症や血栓症のリスクがありますし、QOLの低下を抑えることも難しいです。
このような問題を細胞治療によって改善することが求められています。
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