心理学に基づいた仕事で成果を上げるための正しい目標設定
- どんな目標設定が効果的なの?
- 目標を設定したけどあきらめてしまうことが多い
- 目標達成してもモチベーションが維持できない
仕事などで今年度の目標を立てても半年後や一年後になると最初に計画してたことと全然違うことをしてた、ということがあると思います。多くの場合は目標設定の仕方に問題があります。
この記事を読むことで心理学に基づいた正しい目標設定の方法が分かります。
心理学に基づいた仕事で成果を上げるための正しい目標設定
結論をいうと「目標を曖昧にする」というやり方が正しい目標設定となります。
意外!と思うかもれません。
目標設定と言うと「何を達成するのか」や「達成の基準」、「期限の設定」、「達成するまでの計画」など具体的に決めるように言われるかと思います。
しかし、ハーバード・ビジネス・スクールの出した「Goals Gone Wild: The Systematic Side Effects of Over-Prescribing Goal Setting」(目標設定の副作用)では目標設定の悪影響が指摘されています。
- 目標の範囲外に目を向けない視野狭窄
- 倫理に反する行動の促進
- 歪んだリスク選好
- 組織文化の弱体化
- 内発的動機の減退
例えば、今期の売り上げを100万円伸ばすという目標を掲げたとします。期限が近付いてきたにも関わらず、売り上げは一向に伸びず目標の達成ができそうにありません。そういった場合に顧客をだまして商品を売り込もうとする可能性が高まります。
目標設定(無理な販売ノルマ)が原因で携帯会社が高齢者に対して必要のないオプションをつけて売り込んでいたり、保険会社が詐欺まがいの不適切な契約を行ったなどニュースになっていましたよね。
どうやら目標設定が視野を狭め非倫理的な行いを助長している可能性があるようですね。
目標設定についてもう少し掘り下げて考えていかないと間違った目標設定をしてしまいます。
目標設定を曖昧にするメリット
目標設定に悪影響がある、と言っても何か目指すところがなければ組織がまとまらず個人が好き勝手なことをしてしまいます。
そこで目標設定を曖昧にするという方法が提案されました。目標が明確でなくても何となくどこを目指せばいいのか分かるため組織が崩壊することはありません。
- 仕事に消極的になるのを防ぐ
- 非倫理的な行いを防ぐ
- 工夫する余地が生まれる
仕事に消極的になるのを防ぐ
言われたことだけやって最低限の目標を達成すれば評価されるという考えを防ぐことができます。
従来の目標設定ではいつ、何を、どのように達成しなければならないか具体的に決められていたため、仕事に消極的になっていました。
目標を曖昧にするとどこまでやれば十分か分からないので必要以上に努力するようになります。その過程で様々な情報を集め自分で考える習慣がつくので従業員の能力が伸びやすくなります。
非倫理的な行いを防ぐ
目標達成のために他人を騙したり、出し抜いたりする行動が減ります。
目標を具体的にしてしまうと目標達成のために非倫理的な行動が増えます。目標を曖昧にすることで成果が上がらなくても自分を慰める余地が残り、精神的に追い込まれることが少なくなります。
工夫する余地が生まれる
目標が曖昧なため、目標のために仕事を工夫する余地が大きくなります。
これが目標を曖昧にすることの最大のメリットです。
このメリットにより
・ジョブ・クラフティングを行える
・心理的健康が促される
という効果が期待できます。
ジョブ・クラフティングを行える
ジョブ・クラフティングとは「仕事の内容や方法」、「人間関係」、「仕事の捉え方」を工夫することを言います。これにより仕事にやりがいを持てるようになることが知られています。
目標というのはその時に考えられるベストな目標であり、世の中が変化すれば間違った目標になるときもあります。世の中の流れをうまく読めていない時にはただの願望になり現実味が無くなります。世の中の変化に柔軟に対応するためにも目標を曖昧にしておく方が良いでしょう。
心理的健康を促す
目標が曖昧なため内発的動機づけが高まる余地が生まれます。
内発的動機づけとは「〜したい」、「〜に興味がある」など自分の内側から生じた動機づけのことを言います。
この動機に基づいて仕事をしていると集中力が高まり、少ないストレスで成果が出ます。
内発的動機づけの反対に外発的動機づけがあります。
外発的動機づけとはお金や名声、誰かとの比較など自分の外側から発生した動機付けのことを言います。
この動機付けに基づいて仕事をしている場合は集中力が続かず、ストレスも多くなり長期的な成果が出ません。
目標を曖昧にしておくと自分の欲求に基づいて行動するので内発的動機づけが高まります。誰かにやらされるのではなく、自分で決断することで少ないストレスで仕事にコミットできます。
2004年にMaarten Vansteenkiste によって発表された論文では「この文章を読むことで○○の問題に対して将来のあなたができることを教えてくれる」と言った内容を読むと内発的動機付けが高まることが分かっています。
また、「この文章にはお金や名声を得るための方法が書いてあります」と言った内容を読むと外発的動機づけが高まることが分かっています。
前者は問題を解決したいという自分の内側の欲求に基づいていますが、後者は自分の外側の欲求に基づいています。
もちろん、前者の方がパフォーマンスが良くなる、という結果も得られています。
また、この論文では「あなたが望むなら~」や「~してくれるよう頼む」といった文章は自発性を強め、「~すべきだ」や「~しなければならない」といった文章は自発性を弱めることも分かっています。
もちろん、自発性が強い方がパフォーマンスが高まります。
こうした自分の欲求に基づいた状況はパフォーマンスを高める以外の効果もあります(R)。
- 自分で物事を変えれるんだ、と言う感覚(自己効力感)の上昇
- 創造性の上昇
- 集中力の上昇
- 幸福感の上昇
- 人生の満足度の上昇
こうした結果から目標を細かく決めるのではなく従業員の内側からくる欲求に従わせた方が成果が出やすいと考えられます。
誰かとすぐに比較されたり、目標が達成できなかったら罰がある、といった組織では内発低動機づけが弱まり成果が出にくくなるようです。
曖昧な目標とは?
曖昧な目標というのが曖昧なため具体的にどのようにすればいいのか紹介します。
目標を決める際にはジョブ理論が参考になります。
ジョブ理論とは提供するサービスによって顧客がどんな体験をしたかに注目して仕事をすることを言います。
「ドリルを売るより穴を売れ」と言う言葉を聞いたことがありますか?自分の会社がドリルを販売していたとしても顧客は欲しいのはドリルではなく穴です。
ドリルを売れと言われるよりも、穴を売れと言われた方がドリル以外の製品も検討することになり視野が広がります。また、顧客が穴のサイズのバリエーションを重視している場合もあればスピードを重視している場合もあるでしょう。
こうしたそれぞれの顧客に特化した製品を作ることで他社と差別化できビジネスがうまくいくというものです。
そのためには顧客の体験を調査することが重要になります。顧客の体験は一行であらわすことが出来ず、曖昧な表現になってしまいます。しかし、この曖昧な目標だから良い効果が得られます。
ジョブ理論は社会的モチベーションを高める
ジョブ理論は社会的動機づけを引き出すのにも有効とされています。
社会的動機づけとは自分ではなく他人や世の中のために役に立ちたいという動機づけの事を言います。
社会動機づけが高いと学校の勉強などの退屈なことにも一生懸命取り組むようになることが知られています。
2014年にDavid S. Yeagerが発表した論文では社会的モチベーションの高い子供は他の誘惑につられることなく、困難なことがあっても努力を続ける力が高いことが分かっています。
ジョブ理論では顧客の体験に注目するため、社会的モチベーションが高くなり最後まで仕事をやり抜くようになると考えられます。
このようにジョブ理論に基づいて行動するというのは様々な効果がありそうですね。
まとめ
今回は目標を曖昧にすることでモチベーションが高まり成果が出やすくなるという話を紹介しました。
一般的に言われているような明確な目標だと自分で工夫する余地が狭まり、うまく動機づけできないようですね。目標達成の方法や期限を具体的にしたところで計画がその都度変わっていくというのはよくあることだと思います。
個人的な1年の目標や今期の目標などを立てる時も目標を曖昧にしておくことで「計画通りいかないからやめよう」ということが無くなります。
参考文献
・Motivating Learning, Performance, and Persistence: The Synergistic
・Effects of Intrinsic Goal Contents and Autonomy-Supportive Contexts
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