判断を誤らせるヒューリスティックバイアスとは?
何か判断した後で何でそんな判断をしたのか後悔したことはないですか?
おそらくバイアスによって論理的でない決定をしてしまっています。
特に複雑な問題の時には自分い都合のいい質問に置き換えてその質問に答えてしまっているようです。
今回はファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を参考にヒューリスティックバイアスの紹介をしていきます。
判断を誤らせるヒューリスティックバイアスとは?
私たちが何か判断を下す時には2つのシステムが影響し合うとされています。
- システム1…自動的に努力の必要もなく自然と働くシステムのこと。自分でコントロールしている自覚はないという特徴を持ちます。
- システム2…頭を使わなければならない知的活動のこと。代理、洗濯、集中などの主観的経験と関連づけられるという特徴を持ちます。
システム1と2が相互に補完し合って正しい判断をしようとするのですが、システム2が働かないことが多くなかなか上手く機能しません。
そのため、バイアスを含んだ判断になってしまいます。
様々なバイアスがある中で、今回はヒューリスティックバイアスについて解説していきます。
ヒューリスティックバイアスとは
ヒューリスティックバイアスとは…複雑な質問をされた時に簡単な質問に置き換えて答えることを言います。しかし、その置き換えは正しくはないためバイアスを持った答えになります。
例1)芸能人や政治家の浮気やスキャンダルは報道されやすいため、どのぐらいの件数か予想する時に数を多めに見積もってしまう。
実際には統計的なデータを元にしなければならないのですが、直感的なイメージで判断してしまいます。
例2)Aさんが指揮する直近の3つのプロジェクトがうまくいったために次のプロジェクトも上手くいくように思える。
Aさんが次のプロジェクトを成功させれるかは直近のプロジェクトとは何の関係もありません。それなのに、直感的に上手くいくような気がしてしまいます。
こうしたバイアスはシステム1が直感的に予想を立てる能力があるために起こるとされています。
この現象に関して面白い実験があるので紹介しておきます。
思い出しやすいとバイアスがかかる
参加者は下記の質問に回答します。
1、最近どのぐらい幸せですか?
2、先月何回デートしましたか?
この結果では1と2の質問の相関はほとんどゼロでした。デートした回数が多いほど幸せということにはなりませんでした。
しかし、もう一度順番を変えて下記の質問に答えてもらいました。
1、先月何回デートしましたか?
2、最近どのぐらい幸せですか?
2回目の結果では1と2の質問の相関がとても高くなりました。
2回目の実験では最近どのぐらい幸せですか?という質問を知らず知らずのうちに先月何回デートしましたか?に置き換えて答えてしまったと考えられます。
1回目の実験では幸せについていろんな指標を元に答えていたものが2回目の実験ではデートの回数だけが指標となってしまいました。
他にも下記のような実験もあります。
被験者に2つの質問をします
・何か強く自己主張した例を書いてください。
・自分がどの程度自己主張が強いか評価してください。
この際に自己主張した例を6個書くグループと12個書くグループを2つに分けました。すると、12個書くよう支持した方が自己主張が強くないと評価した。
なぜこのような結果になったのでしょうか?
この結果を考える上で重要なことは数と思い出しやすさです。
多くの人は自己主張した例を12個思い出すのは簡単ではありません。そのため、被験者は「なかなか思い出せないってことは自分は自己主張が強くないのではないか?」と考えるようになり、自己主張が強くないと判断しました。
このように簡単に思い出せるというのは思い出せる数よりも判断に影響を与えるということが分かります。
ヒューリスティックバイアスのマーケティングへの応用
- ブランドを宣伝する
- お決まりのルールを連想させる
- 実績をアピールする
それそれについて解説します。
ブランドを宣伝する
例えば、通販といったらAmazon、そうめんといったら揖保乃糸のようにこの商品といったらこのブランドという印象を与えます。
すると、何か商品を買おうとした時にそのブランドの名前が浮かんできてそのブランドの商品を買ってしまいます。
こうした効果はプライミング効果としても知られています。
お決まりのルールを連想させる
例えば、青汁が苦いという宣伝をすると「良薬口に苦し」というコトワザが浮かんできます。また、赤色というのは辛いという印象を与えるためキムチやタバスコのような辛い商品を売る時には赤色にデザインされたものが好まれます。
このように商品の特徴に合わせた宣伝方法により顧客の求めているものを分かりやすくできます。
実績をアピールする
例えば、「お客様満足度No1」や「今年一番売れた商品です」などのような宣伝がしてあるとその商品を買ってみようと思ってしまいます。
「お客様満足度No1」や「今年一番売れた商品です」が自分の満足度と関係あるか分からないにも関わらずです。
こうしたバイアスはバンドワゴン効果としても知られています。
ヒューリスティックバイアスの対策
ヒューリスティックバイアスの対策としてはシステム2により思い出した内容を吟味することです。
ちゃんと考えてみると今の問題と関係ないな、と気付けるかもしれません。
ただ、状況によってはシステム2が働きにくくなります。
どのような時にバイアスがかかりやすくなるのでしょうか?
- 難しい別のタスクを行なっている
- 気分が落ち込んでる
- 直感を信じる傾向が強い
- 強い権力を持っている、またはそう思い込んでいる
システム2に負荷がかかっている時や自分に自信を持っている時にバイアスがかかりやすくなるようですね。
おそらく、この記事を読んでる人でもこんなバイアスにかからないと思っている人がいるかもしれませんが、そういった人はバイアスを持っている可能性が高いです。
ヒューリスティックバイアスの政策への応用
こうしたヒューリスティックにより、専門家と一般市民との意見のぶつかり合いが生じることもあります。
例えば台風や地震により甚大な被害が出ているにも関わらず、災害が起こった時にしか報道しないため、被害総額や死者数を低く見積もってしまいがちです。そのため、一般市民は災害に対して危機意識が薄く、専門家は危機意識が高いというギャップが生じます。
政策を好き嫌いで判断してしまう
スロウビックの研究によると人は好きか嫌いかでメリットやリスクを判断するという結果が出ています。
災害対策のための有効な政策を打ち出したとしても市民の好みに合わなければ成立しません。
さらに、メリットを強調するメッセージを聞いた後だとメリットが強まるだけでなく、リスクを低く見積もるようになるという結果も出ています。
例えば化石燃料での発電による経済にとってメリットを聞くと気象災害へのリスクを低く見積もってしまいます。経済のメリットと災害のデメリットには何の関係もないのにも関わらずです。
スロウビック曰く、政策は国民のために行われるべきであり、こうしたバイアスがかかっている場合であっても国民の不安を無視するべきではないと言います。
一方でサンスティーンはスロウビックの意見に反対しています。政策が客観的な事実よりも主観的な世論に流されすぎていると主張しています。
政策は主観的世論に流されるべきでない
サンスティーンは利用可能性カスケードと呼ばれるヒューリスティックにより自己増殖的な連鎖を引き起こし、効果的な決定を妨げていると指摘しています。
例えば国民を幸せにするにはどうすれば良いか?という問いに対し、各々の価値観を無視してお金を分配すれば幸せになる、という答えを出します。
さらに、どうすればお金を公平に分配できるか?という問いに対して何を持って公平なのかは無視して経済の原則によってお金を分配するという答えを出します。
例を出すのは難しいのでずれているかも知れません。とにかく、難しい問いに対して利用可能性ヒューリスティックで答え、そこで生じる難しい問題に対しても利用可能性ヒューリスティックで答えるという連鎖が起きている、ということです。
国民の不安を優先すべきか、専門家の意見を優先すべきかは結論は出ていません。国の政策は複雑な要素が絡み合っているため国民が理解しやすいようヒューリスティックの考え方を用いて最適な政策を決めていくことが求められています。
まとめ
今回はヒューリスティックバイアスについて紹介しました。
直感的に考えてしまうため、論理的でない判断をしてしまうって事ですね。
対策法を紹介しましたが、システム1が何も意識しなくても働くため訓練が必要です。常にシステム2を動かすのは大変ですが、重要な時にだけ動かすのは簡単です。
何か重要な判断をする時にはバイアスがかかっていないかよく考えてみましょう。
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