赤ちゃんの脳に時系列がない話

赤ちゃんの身体と精神の発達。子供の成長を左右する親の役割とは?

私たちはどの様にして自分を成長させているのでしょうか?過去の体験から学び、どんな人間になりたいか判断しているはずです。では、一番成長するスピードの速い赤ちゃんはどの様に周りから学んだことを自分の成長に繋げているのでしょうか?今回は赤ちゃんの脳の仕組みを中心に書いていきます。

赤ちゃんの脳に時系列がない話

大人は注意を向けた対象をはっきりと認識できますが、赤ちゃんはそうではありません。

大人と赤ちゃんにはどのような神経科学的な違いや心理学的な違いがあるのでしょうか?

大人が何かに注意を向けるときのことはスポットライトに例えられます。対象を明るく照らし、細部まで見えるようにします。

注意には外因性注意と内因性注意があり、だんだん慣れていくという特徴があります。

外因性注意の例

大きな音を聞いた時、最初は驚いて注意を向けますが何度も聞いているうちにそれほど驚かなくなります。

仕事に於いても最初は注意を向け意識しなければならなかった仕事でもだんだんと無意識にこなせるようになります。

内因性注意の例

何かに集中している時、注意を向けている対象のものしか見えなくなるなどです。

実験では3つのカップを動かして中にボールのあるカップがどこにいくか当てるゲームをしている最中にゴリラのぬいぐるみをきた人物が画面に入ってきても気づかなくなるということが確認されています。

このことから大人は2種類の脳の抑制プロセスを使っていると思われます。

1つは順化による脳の抑制、もう1つは何かに集中することで他のことを排除する抑制です。

一方で赤ちゃんが何かに注意を向ける時のことはランタンに例えられます。

大人との違いは外因性注意が優位になっていることです。自分で何かに注意を向けるのではなく、外からの刺激に対し注意を向けます。

実際にその刺激が興味深いものであれば長い間じっと見つめるという反応を示します。

もう一つの大人との違いは抑制プロセスが効きにくいと言うことです。余計な情報だろうと全ての情報を集めるため様々なことに意識を向けています。

実際に赤ちゃんの脳を調べると新しいものや予想外の出来事に反応する頭頂葉と持続的に視覚の注意を向ける後頭葉が盛んに活動していることが分かりました。

赤ちゃんの喫緊の課題が出来るだけ多くの情報を取り入れデータを蓄積し、反実仮想を描いて効率よく生き抜いていくことです。そのことを考えるとこうした脳の違いが見られても不思議ではないと考えられます。

こうした赤ちゃんの状態は海外旅行に行った状態や瞑想をしている状態に例えられます。常に新しい情報が頭の中に入ってきてそれに注意を向けてしまう状況です。

赤ちゃんに内部意識はあるのか?

内部意識とは…心の内部の意識のこと。過去、現在、未来を行き来し、自分自身をコントロールすること。

外部意識…外部に対する意識のこと。周囲の出来事に対して自分自身をコントロールすること。

注意が外部意識と密接に関係しているのに対し、記憶が内部意識と密接に関係しています。

記憶の分類

  • 現在の行動に影響を及ぼす過去の体験
  • 単なる知識
  • 自伝的記憶

こうした記憶の機能的分類があるのかどうかはある種の脳損傷を受けた患者の特徴からわかって来ています。この患者は知識を学ぶことはできますが自伝的記憶を覚えることができないという特徴がありました。

記憶を再生する方法にも内因性のものと外因性のものがあります。

子供に今日はどんな日だった?と訊いても別にのような答えしか帰ってきません。これは内因性の記憶を再生する能力が発達していないことが原因だと考えられます。

自伝的記憶の特徴はなぜその記憶があるのかも知っている、もしくは知っていると信じていることです。

例えば自分が東京タワーの光景を知っているのは自分が旅行で東京タワーに行ったからだ、と説明できると言うことです。

しかし、3歳児では単なるエピソードは覚えているのですが時系列を並べる事ができず。どうしてそれを知ったのかは思い出す事ができません。

このことから乳幼児には過去と現在を繋ぐ内部の自伝家がいないと考えられます。

この現象に関連して3歳児までの子供は自分の信念や願望を数分のうちに忘れてしまうと言う現象があります。

例えばクッキーが入ってそうな入れ物の中身が鉛筆だった時にがっかりした反応を見せたにも関わらず、クッキーが欲しかった?と尋ねると「全然」と答えるなどのことです。

自分の中で時系列を組み立てられないため過去の自分の願望を忘れてしまっているのです。

過去だけではなく未来との関係も組み立てる事ができません。3歳から5歳にかけて未来のために現在の自分の願望を抑制する”実行制御”の能力が身につく事が知られています。

例えば1枚のクッキーを渡し、今食べなかったら後で2枚に増やしてあげると言ったにも関わらず3歳児までの子供はすぐに食べてしまいます。

それに対してもう少し成長した子では見ないようにしたり別のことに注意を向けてクッキーを食べないようにします。

このように幼児は自伝的記憶や実行制御について大人とはだいぶ違った内部意識を持っていると考えられます。

こうした赤ちゃんの状態は自由連想や洞察瞑想をしている状態に例えられます。時系列がなくただ何かが頭の中に浮かんでは消えていくという状況です。

では、時系列が立てられる様になる年齢になると体験したことはどの様に影響してくるのでしょうか?

幼児期の体験はどのようにその後の人生に影響するのか?

3〜5歳になると時系列を意識できるようになります。

数分後の未来もあれば人生という大きな未来もあります。幼児期の体験がその後の人生にどの様に影響しているのか?これは単なる遺伝だけでは説明できず遺伝と環境とが相互作用するとても複雑な構造になっている事が分かっています。

単純な実験では一卵性双生児と二卵性双生児のを比べるというものがあります。

一卵性双生児で差が出ず、二卵性双生児でのみアルコール依存症に差が出たためアルコール依存症の形質が遺伝したという事が分かります。

複雑な実験では遺伝と環境の関係を調べたものがあります。

惨めな親のもとで生まれても健全な親のもとで育てば惨めな親になる確率はそれほど高くありません。逆に健全な親のもとで生まれても惨めな親のもとで育つと健全な親になる確率は高くありません。

また、惨めな親のもとで生まれ惨めな親のもとで育った場合には惨めな親になる確率はかなり高くなります。

さらに、子供が周囲から学んだことから新しい環境を思い描いて作り出すことも分かっています。

これにより自分で環境を好転させ、その環境からさらにいい刺激を受けるという好循環が生まれることも分かっています。

逆に惨めな親のもとに生まれ惨めな環境で育った場合の様に悪循環ができてしまうこともあります。

この様に子供の人生には単なる遺伝や環境だけでなく、相互作用による複雑な構造が影響していると考えられます。

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