Netflixに学ぶ人事戦略。変化に迅速に対応できる企業文化の作り方。
- Netflixが成長した理由が知りたい
- 変化に対応できる柔軟な会社にしたい
- 人事戦略について学びたい
「全裸監督」や「テラスハウス」など多くの人気作品を生み出しているNetflixですが、最初はYUTAYAのようなレンタルDVDを数十人で行なっていた会社でした。当時はブロックバスターという大手企業の隙間を狙った産業で、DVDを郵送でレンタルできるというだけの会社でした。しかし、今はアカデミー賞を受賞する作品を作るような大企業になっています。なぜ、Netflixはここまで発展することができたのでしょうか?
この記事を読むことでNetflixが行なっている人事戦略が分かります。
Netflixに学ぶ人事戦略。変化に迅速に対応できる企業文化の作り方。
DVDのレンタルをしていたNetflixが自社で動画作成をできるようになった理由として時代の変化に迅速に対応できる企業文化を作った事が挙げられます。この企業文化のおかげで、ドラマや映画をDVDで見る時代からネットで見る時代の変化に柔軟に対応でき、今ではコンテンツの作成に年間1兆円以上もの費用を出す事ができる会社に成長しました。
この企業文化を支えているものとしてNetflixの人事戦略があります。創造性の高い作品を作るために自由度が高いのですが、責任も取らなければならない戦略になっています。NETFLIXの最強人事戦略~自由と責任の文化を築く~ではいくつかの戦略が紹介されているのですが3つにまとめて紹介します。
- 能力主義
- 人材の適切な配置
- 評価制度
能力主義
Netflixの一番の特徴は能力主義です。優秀な人材だけをかき集め、膨大なお金を支払います。注意すべきなのは人格についても能力に含めると言う事です。仕事ができたとしても怠け癖があったり、チームから嫌われているような人は能力が低いと見なします。この根本にあるのはNetflixが倒産の危機にあった時の体験に基づいているとされています。
当時、赤字経営だったNetflixは従業員の3分の1を解雇しなければならない、という状況にありました。普通なら多くの人が解雇されてモチベーションが低下しそうですよね。しかし、パフォーマンスと人格の両方が優れている人を残すことでチームの士気が向上したということを紹介しています。仕事が出来たとしても普段から怠け癖があったり、ネガティブな発言ばかりする人はチームの士気を下げ、会社の業績も低下させているようです。
こうした能力主義の会社にすることで下記のような効果も得られます。
- 従業員一人一人が事業を理解する
- 嘘をついたり誤魔化したりしない
- 議論が活発になる
従業員一人一人が事業を理解する
会社を成長していくためには経営陣と従業員のコミュニケーションが双方向でなければなりません。経営陣から見たサービスと現場から見たサービスの両方を改善することで、顧客満足度が高まり会社が成長していきます。そのため、従業員が下記の項目について理解しているか確認して見ましょう。
- 会社全体の事業の仕組みを理解しているか?
- 会社が抱えている課題について理解しているか?
- 競合他社の強みや弱みを理解しているか?
従業員がこうした項目について答えられない場合、知るべき情報が与えらえてない可能性が高いです。従業員に必要な情報が伝わっていないと、他から間違った情報を聞いてしまう原因となります。
必要な情報がちゃんと伝えられることで従業員は学習意欲を向上させ、スキルアップしやすくなります。また、情報伝達は定期的なコミュニケーションのきっかけにもなり競争優位を支えてくれます。
従業員の事業理解度を高めるために下記のような方法があります。
- 損益計算書など決算発表の資料を従業員と共有する
- 競合企業と強みと弱みを比較した情報を提供する
- 課題取り組む方法や課題を議論するプロセスを確立する
- 何も知らないような分野がある場合にはその分野のリーダーに説明を求める
- 顧客がどんな人でどんなニーズがあるのか把握するために顧客との接点をもつ
こうした取り組みをすることで従業員の事業理解度を伸ばす事ができます。現在、企業に勤めているという人はどの程度こうした取り組みをしていて、どの程度事業を説明できるか確認してみると良いでしょう。
嘘をついたり誤魔化したりしない
能力主義というのは人格も含むので、能力が高い人を選ぶ事で嘘をついたり誤魔化したりする人が減ります。従業員は事業や業績についてありのままの真実を聞きたがっているので、真実を聞く事でチームのモチベーションが上がり、パフォーマンスが改善されます。また、自分が間違ったときには素直に認め、ミスしたプロセスや原因を共有するようになります。こうした嘘や誤魔化しのない社風になる事で下記のような効果が得られます。
- 陰口がなくなる
- 正直である事で尊敬されるようになる
- 問題が深刻化しにくくなる
- 重要な意見を発見しやすくなる
- 責任が明らかになり不当な負担を追わなくて済むようになる
ただし、能力主義で人材を集めたとしても企業文化が悪ければ、嘘や誤魔化しが出てきます。そのため、Netflixは嘘や誤魔化しに厳しい制度があります。
例えば、Netflixでは経費使い放題、休暇取り放題なのですが適切な理由がなければ即解雇されます。全ては「会社の利益を最優先にしているか?」で評価され、自分のために嘘をついたり誤魔化したりできないような仕組みになっています。また、会社も解雇した理由を全員に周知し、誤魔化したりしません。
議論が活発になる
従業員が事業の仕組みを理解し、スキルアップに励んでいるので議論が活発になります。また、議論の内容も濃いものになりダラダラと時間だけが過ぎていくようなミーティングでは無くなります。議論を活発にするために、Netflixでいくつか決められているルールがあるので紹介します。
- 議論の参加者は自分の主張を持っている
- 主張には科学的なデータによる裏付けがある
- 批判的なフィードバックを伝えるときには具体的で建設的で善意が伝わるように配慮する
- 議論で負けた時は素直に負けを認める
- 発言しやすくなるように小さな集団で議論する
Netflixではこうしたルールを守れば上司にも意見する事ができます。大企業で働いていて取締役に意見を言いにくい、と感じている人もいるのではないでしょうか?しかし、経営者と従業員のコミュニケーションが成立しないとサービスが向上していきません。経営陣にも率直に意見を言える事で会社が成長しやすくなります。
ただし、議論を活発にしようと思っても人にはバイアスというものがあります。バイアスにとらわれる事で議論が間違った方向に行く事があります。このバイアスを排除するための注意点についても紹介しておきます。
- アイディアを正式に検証するための場を設ける
- 逆の立場に立って議論するように促す
- 黙ったままのメンバーに議論に貢献するように促す
- チームの重要な決定や取り組んでいる課題に対して解決策を発表する場を定期的に設ける
- 他の部署からの有意義なフィードバックを受ける
- 先入観に基づいてデータを取捨選択していないか注意する
いくつかの項目について詳しく解説します。
議論は科学的データに基づいて行えれば良いのですが、データを集めるのが大変でなかなかできない事が多いです。そのため、小さな実験を行い実際に仮説と同じような結果になるか検討する場があると良いですね。仮説のまま突っ走ってしまうと大きな損失になる可能性もあるので気をつけましょう。
逆の立場に立って議論するというのは自分の意見に捉われている事に気付かせるのに有効です。議論をしていると自分の意見に固執し他人の意見を受け入れられなくなります。しかし、相手の立場に立って議論させる事で客観的に自分の意見を検討できるようになります。バイアスにとらわれないので正しい結論へ辿り着く可能性が高まります。
また、バイアスを取り除いてくれるのは議論に参加していないメンバーかもしれません。黙ったままのメンバーというのは議論の内容と全く違う考え方で課題を捉えている可能性があります。自分の考えと違い過ぎるので発言する勇気がもてません。こうした従業員に対して発言を促す事で、バイアスにとらわれないより良いアイディアを発見する可能性があります。
人材の適切な配置
能力主義の次に重要なのが適切な人材の配置です。Netflixでの優れた人材とはA級プレーヤーのことではありません。どんなにパフォーマンスや人柄が良くても会社のニーズにマッチしなければ会社が成長していかないからです。また、人材の配置を工夫する事により互いに切磋琢磨して優れた結果が出る可能性が高まります。そのためにも、リクルートの段階から人材探しが始まり、社内の環境を整えて行く事が重要になります。
リクルート
Netflixでは対応するために必要な人材を今から雇います。例えば、人工知能やプログラミングなどの技術が注目されていますが、Netflixではこうした技術が将来必要になると思ったらすぐにリクルートを始めます。普通の会社なら「もしかしたら別のイノベーションが起こるかも?」と言い訳をしてすぐに取り組めません。この柔軟さがNetflixのすごいところですね。
少し具体的に優秀な人材をリクルートするためにどのような事が行われているか紹介していきます。
- 会社の課題の把握
- とにかく優秀な人材を配置することを考える
- 魅力的な会社を作る
会社の課題の把握
まずは会社のニーズを把握します。
・チームや会社が最先端の技術を持っている分野
・最先端に追いつくために努力している分野
・新しい人材を投入しなければ追いつかれそうな分野
それぞれの分野を伸ばして行くために、どのようなスキルや経験を持った人材が必要なのか考えます。もし、以前の会社でパフォーマンスがとても高い候補者がいたとしても、会社のニーズにマッチしなければ採用しません。
とにかく優秀な人材を配置することを考える
採用担当マネージャーの最大の仕事はハイパフォーマーを獲得することです。なぜなら、従業員は量よりも質を重視した方が良い場合が多いからです。チームに優秀な人材を迎え入れてチームの規模が縮小したとしても業績が上がれば良いと考えます。そのため、従業員の定着率よりも全ての職務にハイパフォーマーが配置できているかを考えます。
リクルートするときには職歴を掘り下げて幅広い経験と基本的な問題解決能力があるかどうかに目を向けます。また、面接するときには全ての人にこの会社に入りたいと思わせるように気をつけます。なぜなら、採用過程も会社の評判に関わるからです。
リクルーターを雇うときには専門的は事業でもその仕組みを理解している人でなければなりません。そのために密なコミュニケーションを心がけましょう。
候補者が揃い始めたら、候補者の具体的な仕事を考えます。
・製品やサービスの改良に役立つ技術
・競合他社から奪えそうな市場シェア
・新しい市場
などがないか考えます。また、もしも最高のチームができたときにどのような成果が得られるのかを明確にします。
内定を出すときには会社と候補者に互いにメリットがなければなりません。いくら優秀な人で会社に利益をもたらしてくれそうな人だとしても、この会社で働きたいと思ってもらわなければ入社してくれません。そのため、魅力的な会社を作る事が必要になります。
魅力的な会社を作る
ハイパフォーマーをリクルートすることは魅力的な会社を作る事にも繋がります。優秀な人と一緒に仕事をすると互いに刺激になりチームの業績が向上します。また、互いに切磋琢磨する環境が生まれることで個人のスキルも向上します。
優れた人材を採用するためにはボーナスや昇進の確約、高額の給料で仕事を決めません。なぜなら、他社でも同じような報酬を受けられるからです。そのため、報酬よりも他の優れた人材と切磋琢磨して仕事が楽しいと思えるかどうかが鍵になります。こうした企業文化というのはすぐに作れるものではなく、会社の重要な資産となります。
企業文化
適切に人材を配置しても社内の文化が整っていなければストレスがたまり成果が出にくくなります。会社に勤めている人であれば「何故、こんな手続きがあるの?」といこともあるでしょう。Netflixでは企業文化を整えるために下記のような取り組みが行われています。
- 従業員特典やインセンティブの費用対効果を分析する。
- メンバー全員が最終目標を理解し、創造性高く問題解決に取り組めている。
- 経営陣の意思決定方式が明確で内容が全員に伝わっている。
- 無駄な方針、ルール、手順、承認など機動性を妨げるものはできるだけ排除する。そのために、絶えず実験を繰り返して製品やサービス、社内で文化に磨きをかける。
- 取り組んでいる事業でどんな変化が起こるか想定している。また、その変化が予想よりも早く進行した時にすぐに新しい人材の面接に取りかかれる体制になっている。
Netflixでは業績をあげるのにベストだと思えば人材開発を行うが、基本的には会社は能力開発をしません。会社の仕事は製品と市場の開発であり、従業員一人一人の能力開発は個人の責任としています。
また、優秀な社員がやめてしまった時の穴埋めができる2人を挙げられるようにしておくこと、代わりの候補者を紹介してくれるビジネス上のネットワークを築いている事が求められています。
評価制度
能力主義で人材の適切な配置ができた上で重要になるのが評価制度です。適切な評価が行われる事で納得感のある仕事ができるようになり、従業員のやる気が引き出されます。そために、Netflixでは下記のような注意点に気をつけて評価が行われています。
- 定期的な職務内容に基づいて給料を決めない:給与水準が決められている事によって最高のチームが作られるのが妨げられてはなりません。給料を市場の水準の何パーセントと決めるのではなく、特定の分野だけでもいいのでトップレベルの給料を支払うことを検討する。
- 給料に関する情報をオープンにする:オープンにする事で男女差別など無意識な偏見を減らし、個人の貢献度を議論する事ができるようになります。また、議論することで個人でスキルを伸ばした人の報酬が適切か、スター人材を雇うべきか、という問題もわかるようになります。
- 人事考課は行わない:人事考課は膨大な時間を無駄にしなければならないにも関わらず、リアルタイムの情報が得られない。
- フィードバックのタイミングに気をつける:従業員は頻繁にフィードバックを受ける事で能力を伸ばす事ができます。そのため、月次や年度末の評価ではなく、目標の達成期限を元に決めた方が合理的です。
- 他のメンバーからフィードバックを受ける:上司からのフィードバックだけだと評価が偏るので他のメンバーから得られないか検討します。
こうした評価制度により適切な評価を受けられるのですが、もしかしたらNetflixに適していないだけで他の会社に行けば高い評価が得られる従業員もいます。そういった従業員に対してNetflixは自分で判断出来なければならないとしています。ただし、Netflixでは個人だけの問題と突き放すのではなく、他社のマネージャーとチームメンバーを推薦しあうような関係を築けないか、を検討しているようです。
注意点としてはあくまでも「結果で評価する」というものです。やる気があったとしても結果が出るとは限りません。それに、やる気というのは目に見えないので他人が公平に評価出来ません。それに対し、「結果で評価する」というのは誰の目にも明確なので公平に評価できます。
まとめ
今回はNetflixの人事戦略を紹介しました。
従業員を一人の自立した人間として扱っていて合理的な戦略だと思います。日本は従業員が法で守られているので自立が阻害されているような気がします。どうしたら自立した社会人になれるのか見直してみようと思いました。